「…浦島太郎かな?」
思わず口をついて出たこの言葉を説明すると、「まるで何日も携帯電話を放ったらかしにしていたかのように貯まっているこの新着件数を見ると、僕は浦島太郎のごとく時間空間を超えてしまったのかな?」という意味だ。三年寝太郎でもいい。とにかく丸一日でも寝ていたんじゃないかって思ったんだけど、そもそも丸一日ケータイを放っといても着信が51件くることはないだろうから、寝ぼけ眼なりに冷静に考えた結果の第一声がさっきの浦島太郎発言だった。
見ると、1時間以上も前にこの魔のような新着ラッシュは終わっていた。約束は10時で、いまは13時だから、1時間前のちょうど正午に、待ちくたびれて帰ってしまったかもしれない。怒っているに違いない。ピンチ。
あわてて僕は着替えを済ませ、身だしなみを整え、洗濯機をまわした。だって洗濯しないと溜まっちゃうじゃん、というのが言い訳だった。ダメ人間もここまでくるとたいしたものだと思う。この段階へきてようやく僕はふたたび携帯電話を出して、友達にメールを打った。
「いま起きました。
あと30分後にはそちらに着くと思います。
メンゴ メンゴ- (@゚ー゚@)ノ」
親しき仲にある礼儀の斜め上を高速でカッ飛ばすような文面だった。余談だけど、僕の家から待ち合わせ場所に行くまでは5分もみとけばじゅうぶんだ。30分というのは無論、洗濯が終わるまでの時間である。ここまでキャラが一貫しているのはすばらしいんじゃないかと思う。思わない。
洗濯が終わり、洗濯物を干して、家を出た。ここでのポイントは、わざわざ着替えて身だしなみを整えてから洗濯機をまわしてたというところだ。洗濯中に着替えればいいじゃん、っていう。
待ち合わせ場所(ショッピングセンターのマックの前)へ到着した、けど、友達はいなかった。ケータイを見ると、「ヴィレヴァンにいる」というメールがあった。
僕「YO, YO! 遅れてゴメンYO!
俺がファンキー遅刻魔! 遅れた最高記録だ!
謝っとくからマジ勘弁! 寝坊, ねぇボウヤ怒ってる?? イェア」
友「Hey, You 何時間遅れてんだよ! 待ちぼうけなんてマジ大ウケ!
足が棒になるってんだ! 時計の長針が3周, オマエ斬首! チェケラゥ」
僕「アイムソーリー! それよーりー!
お昼まだだろうがYO! なに食べるYO!」
友「お前のおごりだよな?」
僕「うん」
ビッグマックとナゲットとシェイクが僕の財布から飛んだ。僕はせめてもの抵抗として、いちばんシンプルなハンバーガーセットを頼んだ。ラップで謝るんじゃなかった。
彼とはわりと頻繁に会ってるんだけど、今回は旅行のお土産を渡してくれるというので、わざわざ連絡をとったわけで、まぁようするに僕はお土産をいただく立場でありながら3時間以上も遅刻したウスラトンカチってことだ。
僕「しょうもないキーホルダーとかご当地ストラップだったら
しょうちしねぇからなこの野郎!」
友「人を3時間以上待たせて土産もらう立場のやつが
どの口でそんなこと言えんの?」
僕「どこ旅行したんだっけ?」
友「富山の親戚ん家に行ったついでに
ちょっとだけあのへんをね」
僕「富山かー、弟がおるわー」
友「これから寒くなるってのに
なにが楽しくて北陸に行かなきゃならんのだって
すごい渋ってたんだけどね」
僕「かにめしなんか好っきゃけどねー」
友「そのカニ缶を土産にね」
僕「ジーザス・クライスト!!!!」
カニ缶をいただいた。神々しいほどに輝くカニ缶を持つ彼にはマジで後光がさしていた。遅れてゴメンって心の底から謝罪した。
友「ところでさ、俺のメッセージ見てくれた?」
僕「80件くらい来てた、常識の範疇を超えた数のアレ?」
友「3時間遅れながら洗濯機まわすほうが常識外の行動やわ」
僕「直近の5件くらい読んだよ」
友「あのメールと電話の件数がメッセージだったんだけど」
僕「は?」
彼が言うには、「メール84件、着信51件」という数字は「8451(早よ来い)」の暗示だったらしい。気づくかそんなの。ほんで12時で止まってたのはその数字をくずさないためか。職人のこだわりが感じられるわ。
そんないきさつを経て、僕の家にはいまカニ缶がある。カニ缶に向かって、
「アン? やんのかコラ? じゃんけんなら負けねぇぞクラ?」
ってケンカ売って遊んでるけど下宿はひとり。しかもカニ缶にハサミはない。
でもなんにせよこんどから、彼に会うときは五体投地をする覚悟でいようと思った。
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