同棲とは 1

2013/05/11

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去年の日記帳を整理してたら、あの摩訶不思議な同棲生活のようすが事細かにスケッチしてあった。ワード何ページぶんだろう。とにかくヒマだったんだと思う。

「マグカップを色ちがいでふたつ買った。青と茶色のほうが僕ので、ピンクとグレーのほうが『彼女』の。いま、その『彼女』がポットからそのオソロのマグカップに紅茶を淹れてる。『今日はアップルティーね〜』とか言ってる。」

この状況を説明するには、去年のカレンダーを取りだして時間を巻きもどさなくちゃいけない。2012年5月まで。ちょうど1年前だ。そんなむかしのカレンダーが残ってるウチはないと思うんだけれど、いちおうね。


***


ゴールデンウィークが明けたころだった。買いものにいこうと玄関を出たら、アパートの僕の部屋の隣りの壁に、長く伸ばした髪をどピンクに染めた女の子が座っていた。あっけにとられてしばらく呆然としていると、女の子は顔をあげて僕の顔を見た。どうやら僕が出てくるのをずっと待っていたみたいだった。

「よっ、ひさしぶりっ。元気だった?」


彼女は僕の顔を見るなりそう言った。

「あーもう待ちくたびれたよホントに。アンタぜんっぜん出てこないんだから。座り続けて痔になるかと思っちゃった」

そう続けると彼女は立ち上がり、なんとなく見覚えのあるしぐさで髪をかきあげて、「買いものいくの? 付き合うよ」と言った。見覚えがあっただけで、とくにそれでなにかをハッキリと思い出したわけではなかった。ただなんとなく見たことのある動作で、どっか懐かしいと感じただけ。それでも僕はこのときまだ、彼女が何者なのかがわからなかった。

「…どこかで会った?」

「ちょっと、まさか忘れたの? ほんとに? マジで?」
「悪意はないけど思い出せない」

ピンクに髪を染めているものだから、バンドで知り合った子なのかと推測した。でも、バンドをやっているとたくさんのひとと関わるし、友達にもなるのだけれども、こんどまた対バンするとか、いっしょにイベントやるとか、そういう約束ごとを決めない限りとくに連絡先なんて交換しない。音楽続けてたらまたどこかで逢うでしょ、またね。そんな感じ。だから、彼女ともしいつか同じイベントに出てたとしても、いちど会っただけではなかなか思い出すのはむずかしかった。

…なんてことを考えてると、彼女は笑いながらこう言った。

「変わってないねー、考えるとき口に手をあてるクセ」

そう言われて、驚くのとともになんとなく彼女の声に聞き覚えがあることに気がついて、だんだんとある女の子の面影が想起された。

「わたし、中学のときおなじ塾だったんだけど、思い出した?」


思い出した。思い出したんだけど…


「………思い出したくないということを思い出した」

「そいつはなによりだ」

彼女はニヤニヤ笑いながら続けた。

「ちょっとさ、いま困ってるんだ。助けてくんない?」
「はぁ……。助けるって?」
「お金、貸して。10万円」
「帰ってくれ」

僕は買いものに出かけることにした。

「ねえ、ねえってば。そんなに拒絶しなくてもいいじゃん。さっきのは冗談だって。ん、まぁ困ってるのはホントだけどさ、むかしの彼氏から金たかるようなサイテーな女じゃないよ」


買いものに出かけた僕の裾をつかみながら、彼女はついてきた。


「あと一桁減っても出ないから他あたってくれ」と僕は言う。漫画で読んだことのあるフレーズをさりげなく使ったんだけど、とにかくお金はなかった。


「まぁまぁ。そもそも簡単に貸してくれるなんて思ってないからさ、そんな大金。いま親とケンカしてんの。実家とびだしてきたの。身寄りがないんよ。だからちょっと話聞いてよ」

「はぁ…そうですか」

僕だってむかしの彼女をかたくなに拒絶するほど小さい人間ではない(つもりだ)から、買いものをしながら話を聞くことにした。

「で、俺になにを助けてほしいの」
「単刀直入に言うとさー、泊めてほしいんだよね。れおん家に」
「近くにはネットカフェがあるぞ」
「もう行ったよ。ファミレスで夜明かしもした。なんかああいうとこダメなんだよねー。ほかのひとが使ってたモノは使いたくない」
「友達のとこ行けば?」
「わたし女友達すくないって知ってるくせにー」
「男友達はむかしから多かったじゃんか」
「あーひどい! わたしがだれかに寝取られてもいいっていうの?」
「『俺は寝取らない』って言い切れるんだ」
「言い切れる。あんたにそんな度胸ないの知ってる」
「…いっそ実家に帰るのは?」
「ヤダ。ぜったい」
「高校出てから就職したって聞いたけど」
「辞めちゃった。なんかつまんなくてさ。それからはアルバイト転々と渡り歩いて。よくある話だよ」
「俺もひとのこと言えた口じゃないけどね」
「それが原因で親と一悶着あってね」
「で、家出少女になって、元カレの部屋に泊まると」
「そう♡ ひと晩でいいからさ」

そんな流れになってしまって、ひと晩だけ彼女を部屋に泊めることにした。寝不足だったらしく、夕食を食べたあと(だからきょうの買いものは2人ぶんの食材を買った。出費がかさむ)、毛布を敷いてやると彼女はすぐに寝た。僕もベッドに入った。翌朝起きると、彼女の姿はなかった。


「出てったか…。大丈夫なのかな、アイツ」

僕はそのまま昼ごろに出かけ、帰ってきたのは夕方だった。でも部屋に入ろうとすると、玄関の鍵が開いていた。「まさか…どろぼう?」と、恐る恐る部屋に入ると、電気がついていて、台所から彼女が出てきた。


「あ、おかえり!」


僕は凍りついた。

(続く)

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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