超ひもバトル

2013/06/21

t f B! P L
17時台の名鉄東山線。

仕事を終えたスーツ姿のサラリーマンや、学校帰りの大学生が車内のほとんどを占める。座席はすべて埋まってて、多くの乗客は吊革に手をあずけて立ってる。僕は開閉ドアのすぐとなりの、座席シートのいちばん端に座っていた。

降りる駅まではまだ時間がかかるから、おもむろにポケットに入れてあったiPodを取り出し、選曲をはじめたわけ。で、しばらく操作したあと、矢井田瞳さんの『Candlize』を再生したと。ここで感じたわけですね、違和感。

音が聞こえない。iPodの液晶画面を見ると、1曲目の「キャンドル」が再生中の表示になってて、10秒、11秒と曲が再生されていることがわかる。ボリュームをたしかめると、だいたい最大音量の4分の1くらいのところまで上がっている。でも聞こえない。「は?」というような顔を声に出さずに電車のなかでする。これはこれでなかなか恥ずかしい。

イヤフォンを見ると、接続部分はたしかにiPodのジャックにささっている。それでも音は聞こえないので、イヤフォンのコードをさわってみる。ここでまた感じたわけですね、違和感。ちょっとこれ違うと。いつも使ってるイヤフォンのコードとは明らかに手触りが違うと。Yes, それは、パーカーの紐だった。

僕は、イヤフォンのコードとまちがえて、パーカーの紐を耳に押し込んでいたのであった。なんという滑稽! しかしほんとうの勝負はここから始まった。(?)

僕の目の前には運悪く座席に座れなかった大学生が立ってた。顔は僕に向けており、本を読むわけでも、携帯電話を操作するわけでもなく、手持ち無沙汰に僕のほうを見ている。んーいや違うな。僕を見ているんじゃなくて、それとなしに眺める方向にたまたま僕がいた、くらいの感覚。しかしなにはともあれ、「イヤフォンとパーカーの紐を間違えた僕のほうを見る若い大学生がいた」ってこと。いやん恥ずかしい。

もしかしたら見られてたんじゃないか。この大学生は内心、自分のことをせせら笑っていたんじゃないか。僕はもっぱら疑心暗鬼。ギシアンですよギシアン。

ここで僕にとって不幸なことに、その大学生、ケータイを取り出してなにやら操作しはじめた。もうね、こうなったら僕の疑心暗鬼フル稼働ですよ。Twitterに「電車で目の前のやつがイヤフォンと間違えてパーカーの紐を耳に入れててクソワロwwww」とかってつぶやいているんじゃないか。それをRTして共有して、みんなで自分のことを馬鹿にするんじゃないか。ウ、ウワァァァ!!!

いや待てよ、僕は考える。ここまできたら、周囲の目線なんてあるていどは覚悟の上じゃん? あとはそれをどれだけ抑えられるかじゃん? つまり、パーカーの紐が耳に入っているこの状況から、いかにして脱出するかということじゃん?。

リアクションをとっちゃダメだ。できるだけ静かに、自然な動作でパーカーの紐をはずすことに、全神経を集中するんだ。かといって遅すぎてもいけない。だれか自分以外の乗客(その大学生かもしれない)に、「あの…それ、パーカーの紐ですよ」などと声をかけられるとおしまいだ。それだけはなんとしてでも避けねばなるまい。すべてを自分のなかで、だれにも知られることのない闘いとして収束させなければならない。極力ナチュラルに、そうたとえば脚を組みかえるくらいさりげないしぐさとして、パーカーの紐をはずすことに、最大限の注意を払う。これが、僕の闘いなんだ。僕は組んでいた腕をほどき、慎重に手をパーカーの紐に持っていこうとした。





…あっ。




組んでいた腕をほどいたら、紐に手首が引っかかって、右耳に入っていた紐がとれた。僕はあわててパーカーの紐をふたたび元にもどす。

…のも変だよね!? いや変だわ。せっかくナチュラルに片方がとれたんだから、偶然に感謝してほっといたらいいんだよ。でもここで問題は加速した。片耳の紐がとれたいま、早急にもう片方をとらないと、だれかに気づかれる可能性がおおいにある。

僕はさっき組んでいた腕をほどいて、ゆっくり考えながら対策を練ろうかと思っていたので、これは吉と凶がどっちもきたわけだ。片方がとれた、でももう片方を考えるひまもなくとらなければならない。

ええい、かまっていられるか! 僕はややこしくなって、考えるのをやめてもうヤケクソに左耳の紐をとってしまおうと思い立った。すると「間もなく〜伏見〜。間もなく〜、伏見〜」とアナウンスがあるではありませんか。

伏見で降りようと思っていた僕は、座席を立ちながらカバンを手にとり、そのどさくさにまぎれて左耳に入っていた紐をとった。だれにも気づかれなかったはずである。ナチュラルさで言えば食品添加物ゼロくらいの勢いでナチュラル(自然)だったと思う。これで、僕の闘いが終わった。

結果オーライな気もするけどまぁおもむろに紐をとるのに比べたらそこそこイケたとも思う。いいタイミングで伏見についてよかった。ただひとつだけハッキリと言えること、それは

気づいた段階でサッと紐をとっていればこんなに考え疲れることもなかった

ってことね。変に視線を気にするからこういうことになるんですね。これ読んでくれてるひとも、パーカーの紐を耳に入れてるひと見たら気づかないフリしてあげてくださいね。横目にこう、どうやってナチュラルにはずすかを、こう盗み見る感じ。あれは闘いなんです、自分との。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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