【感想】ワールドゲイズ クリップス/五十嵐藍

2013/09/30

感想

t f B! P L
勘。勘できっと好きだなと思った。それがこの漫画を読んだ理由のぜんぶ。

一応オムニバス形式をとっているものの、数話にわたって連作としてまとめられている作品もある。登場人物たちは基本的に感情を顔にださない。返答もそっけない。でもそれがいい。その無愛想さが愛くるしいと思えるような個性がある。淡々と描写されるファジーなストーリーは、みんなどことなく繊細さを持っているんだけど、繊細の種類も、話によってはちがうと気づく。

<放課後ロスト>は委員長をつとめる優等生の佐藤アヤコと、成績はいいけどサボり癖のある有川ユウキ、2人の女子高生がたいした理由もなく接点をもって、たいした感情もなく行動をともにして、なりゆきで家出するはなし。

前述したように2人とも感情的ではなくて、知人以上友達未満な関係をとりはじめる。家出を決行するに至り、だんだんと心を許しはじめる過程とか、すこしだけ笑ったり、ほおを赤らめたり、そういう表情の変化とか、委員長が小さくながらも変わっているところがなんとも可愛らしい。

家出中のできごとは自由奔放でなにも生産的なことはしていない。それでも、どことなく考えの共通する女の子と話すシーンは印象的。

「でも気が済んだら帰るんでしょ?」
「…あんたも?」
「そうだよ」
「そうだよなぁ」

あとは、1枚のCDをめぐって笑いあうところでは、不思議と心がほっこりとすらする。距離が縮まる瞬間の笑顔。そこもとても心に残る。

学校では理不尽のなか、家でも理不尽のなか。でも高校生活の三年間なんてあっという間。その理不尽と理不尽とのあいだの「悩みもいつか消えてく」、それは「望んでも望まなくても嫌でも変わってく」。あるロックバンドがこういうことをうたった。「生涯最後の10年の代わりに青春時代の3年間がほしい」みたいなこと。きっとこれは青春なんだ。いや、きっとこれも青春なんだ。


<ウォーキング ウィズ ア フレンド>はとってもドライで、飄々としている作品。カラスの死体を埋める、というおかしな目的は、登場人物2人の性格をそのまま体現できるし、それだけで異質な空気を物語に流すこともできる。

そのなかで、卒業を間近にひかえた高校生の男女がもつ虚しさ、空虚感、うつろな穴。そういう寂しさを盛りこむことで、それは死んだカラスっていうネガティブなファクターとつながる感傷になる。

ラストはちょっと大胆な展開で驚いたんだけど、この作品が始めからもっていた浮遊感をあるていど保ちつつ、ややコミカルに茶化したように終わるのは、とても心に心地いいなと。


<緑雨>、これはすこし空気がちがうというか、雰囲気に狂気が混じっているというか、そういう印象を冒頭で受ける。まぁそれは最後のほうで伊花ヨシノのやっていることを知ればおおよそ納得できるんだけど。

雨っていう天気はこの作品の魅力を引き立たせる大事な設定で、しかも夜、深夜の雨。刺激的なストーリーにこれほどのシチュエーションを用意するところが気にいった。ただ刺激が強いとか、じめっとした土のにおいとか、そういうなかに光るヨシノの艶やかさがまた魅力で、ただエロティックには感じない。

片桐のみていたマボロシも、SFチックな要素をいれることでミステリアスの度合いが増すというか、ダークフルになるよね。だからこれはすこし毛色のちがう無感情さ。それでもラストシーンで、雨の降らないなか五百川さんと片桐が並んで歩くシーンはとても晴れやかで澄み渡る透明感がある。この終わりかた、好きです。


<blue imaginary birds>。まったくもってシンプルでカジュアルなはなし。オムニバスの最後の作品としては肩の荷が下りるようなすばらしいタイミング。

元カレとよりを戻すために幸せの青い鳥をさがす女の子。その道中はホントにバカな内容。けっきょく最後は苦難のすえつかんだ「幸せ」を、あっさりと「ニセモノ」にしちゃう潔さがかわいい。だってそうすれば、幸せを否定することもないし、どっかにはまだ幸せの青い鳥がいるかもしれないってことじゃん。ちがったらニセモノ。ホンモノはべつにいる。そう信じることってすごい素敵なことだと思うんです。




ってわけで、表紙買いにとては冬目景さんの「イエスタデイをうたって」以来のお気に入り。ぶっきらぼうでそっけないキャラクターはどれも愛らしく、一度ここまでドライに生きてみたいと思うわ。まぁ僕にはなれそうにもないけれど。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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