【感想】なぜ、この人と話をすると楽になるのか / 吉田尚記

2015/02/02

感想

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僕は以前から「コミュ障なんですよ〜」と自称してるひとが大・大・大嫌いで、そういうひとに対して「お前は友達より野球が下手だったら野球障害とでも言うの?」とか、「そりゃ簡単にだれとでも打ち解けることのできる才能あるヤツもいるけどそんなの習いごととおなじだぞ?」とかと憤っていたのだけど、この本で吉田さんがそのへんを体系的に論じてくれてて、そこだけでも読んだ価値はあったかなと思う。自分のはまちがった解釈じゃなかったんだ、って。

そう、コミュニケーションが練習しなくってもいいなんてことはないんだ。みんなだれしも、練習が必要。でも自称「コミュ障」のひとに聞くと、こう話す。「友達には簡単に輪をつくったり会話でおもしろいこと言うひとがいるのに、わたしはできない」って。そんなの、あたりまえですよね。最初っから見知らぬ“ひとの輪”に入っていけるタイプの人間、たしかにいるっちゃいる。存在はする。でもそれって、高校生で140kmのボールが投げられる生徒のような確率にすぎないと私は思うわけで。そういう才能があるひともいるからといって、自分を「障害」とまでおとしめる必要なんてないし、それは吉田さんの指摘するように、障害者に対する誤解を生みかねない。

その、「コミュニケーション障害」という表現が「医学上の発声器官や知覚機能に問題をかかえている障害者」に対する配慮が至らないという前提もおさえて、それでもネットを中心に普及している表現だからとあえて「コミュ障」を使っていることには、安心もしたし、そういう心遣いができる素敵なかただなとあらためて感じたりもした。

この本では会話、意思疎通、伝心などの行為をコミュニケーション・ゲームとしている。ただ、「心をかよわす」みたいな精神論はまったくなく、メカニズムを明白に加味してコミュニケーションの構造を技術として捕捉する。会話のプロセスも、結果だけで済ませないことに誠意が伝わってくる。

コミュニケーション・ゲームは、対戦型ではなく協力プレー。いま、僕が相手にしているその場所にいるひとびとは、みんな「気まずさ」というラスボスを回避すべく闘う同志なんだと。この本を読んだひとなら、なんなら自分が切り込み隊長としてラスボス「気まずさ」を察知しにかかってもいい。すすんで話そう、すすんで黙ろう。そのくらいの勇気がこの本からはもらえる。もちろん味方との協調性が第一なのは念頭において。

コミュニケーション・ゲームってどういうこと? という詳細な疑問に関してはじっさいに本を読んでいただくとして、こういう考えかたをするには、「笑いの沸点の低いひと」は有利だなと思った。最初からおおきな武器をもってる。笑いにかぎらず、すぐオーバーリアクションしてしまうとか、勧められたらすぐ好きになるとか。たとえば、相手がなにか興味深いことを言ったときに「マジで⁉︎ すげぇじゃん、俺ぜんっぜん知らなかった! えっそれって…」とか、オススメのバンド紹介された後日に「こないだ言ってたバンド、TSUTAYAで借りてみたんですよ〜。したらね…」とか、話題が話題を呼んで会話がつながる。だいたい世のなか生きてると、オススメの音楽を紹介する機会はあっても、じっさいにそれを聴いてもらう体験ってなかなかない。そういうことできるひとアドバンテージある。

本編が「基本編」と「技術編」におおきく二分されてるのも、とてもよくできた構成だなと思う。自称「コミュ障を克服できてない」という吉田さんでも、さすがはプロのアナウンサーだけに、そういうはなしの組み立てや式図をきちんと伝わるように理解されて編さんされている。「コミュ障は日本の国民病」とは言い得て妙で、べつの文化圏の感覚でよくある弁論術も胡散らしく見られる時勢において、どうすれば「伝わる」よう心がけることができるかを実践的に説いていて、これは平野啓一郎さんの『本の読み方〜スロー・リーディングの実践〜』『小説の読み方〜感想が語れる着眼点〜』でも共通して思ったことなのだけども、理論的なはなしも展開したうえで、それをどう実践するか、どう活かすかについて触れられてない本が多いなか(触れたとしても限定された例ばかり)、応用も利く一冊になっている。

コミュニケーション・ゲームの反則行為についても、「ウソ禁止」「自慢はご法度」「相手を否定しない」などを列挙したうえで、きちんとそれがダメな理由を理論づけたもとで論述してくださっていて、とても助かる。たしかに、そういうのはNGワードとしてまとめられがちで、やったらいけない理由を論説してくれる本には、なかなか巡りあえない。僕が何度か「会話術」関連の本を読むにあたって、つっかえてたもののひとつだった。

今後、吉田さんの番組でインタビューや雑談を聴くにあたり、リスナーとして気づけることも多いと思う。ふだんラジオ聴くときも「あっコレはナイス質問」とか「こういうあいづちもあるのか」とか、ひとりでも勉強できる部分あるなと思うなどした。ラジオやテレビのインタビュー、ゲスト掘り下げ型の番組、ベテラン司会者のはなしの持ってきかた等々、日ごろからひとりでも勉強できることだ。


以前、吉田さんが「カメラとラジオと自転車、これらはみんな、ひとりで楽しめる趣味なんです」と番組でおっしゃってたのが印象にのこってるけど(『BUZZ ニッポン!』でしたっけ?)、そういうのが人前で「えー写真? 見せて見せてー」とか「マジか! 俺もこないだロードバイク買ってさ〜」とかいうふうに日の目を見るのよりも高い確率で、コミュニケーションは研究したぶん日常生活で役に立つのはまちがいない。オタクで、コミュ障で、そういう人間が多数いる文化圏で生きてきた吉田さんだからこそ、こういった視点から語ることができるんだなと、最後には思いました。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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