【ネタバレ全開!感想】インストール / 綿矢りさ

2015/05/04

感想

t f B! P L
「リア充」とゆう言葉が若い世代を中心に一般に浸透してからすでに久しいけれど、この物語の最初には「リア充」とおなじ考え方が出てくる。この作品が初出となったのが2001年。当然ながら当時はまだ「リア充」などという言葉は生まれていなかった。にもかかわらず、“考え方としてのリア充”がここにはある。著者がこの作品を「高校2年の冬休みを使って一気に仕上げた」と語っていることからも、若者の価値観に表れはじめていた「リアルが充実」というテーマを、非常に鋭くとらえ、それでいてまた、柔軟に作品に取り入れていたことがわかる。綿谷さん自身がまだ10代の高校生だったという事実も大きいのだろうけど、その10代の集団のなかにいて、自分たちが傾きつつある考えを、世間より早くキャッチしていたことは、たいへん豊かな感性を持っているということなんじゃないかなって。

光一がいう「口では、私この頃ハードスケジュールなの〜なんて言ってため息つくけど実はそんな充実した日々を送っている自分に満足してる」「ハードスケジュールが自分の有能さと人気の証だって勘違いしてて、それが唯一の娯楽さ」といったセリフは、やや乱暴なまとめかたではあるにせよ、いまの「リア充」の内情を突いている。

いっぽうで朝子はまた、現代っ子にありがちな「騙しあいっこ」について考える。試験の前夜に徹夜で勉強しながらも、翌朝、友達に「お前、勉強してきた?」と訊かれると「ぜんっぜん! マジピンチだよ〜」と答えるような光景は、学校生活では頻繁に目にする。頑張ってない自分アピール。それがいったいなにを生むのか。

朝子はそれを「やはり自分を天才だと思わせたいし、思いこみたいからだ」と考察する。そして「すごい平和主義」だから、みんな仲よく手をつないでいたいと望んでいるとする。努力しないのは誰にでもできるから、みんなができるかたちでまるくおさまる。突出すると敬遠されるから。出る杭は打たれる。

そういう日常的な風景、朝子が考える平凡は、彼女にはなんの魅力もなくて。具体的な夢はないけど平凡に終わりたくないという、「何百人もの人間が乗り越えてきた基本的でありきたりな悩みをひきずって」いる朝子は、光一に言われて学校に行かなくなる。ライバルはひとりでも少ないほうがいいと光一は思っている、そう朝子は感じていた。そんな光一を、朝子はかわいいと思う。「それがふつうだよね」って。ふつうってなんだろう。ふつうを遠ざけながらも、ふつうでいることをうらやむ朝子。ゴミ捨て場で少年を見送ったあとに朝子はまた考える。マジメに学校に通うのか、怠けていまみたいな生活を送るのか。

そんな葛藤を抱きながらも、朝子は少年・青木くんの持ちかけた風俗嬢チャットの仕事を承諾する。学校という広いコミュニティから逸脱し、そのあと居座る場所を、朝子は押入れのなかという暗くて閉鎖的な空間に決めた。その暗室に朝子は興味があった。陽射しの差しこむ教室には疑問を感じるのに、たまたま出逢った子どもの部屋の押入れは輝いて見える。そういえば朝子は、自分の部屋から物という物をすべて排除したのに、虚無感しか残らなかったんだ。

ところで、チャットをはじめると決めてから、実際にはじめるまでのあいだに、地の文において少年・青木かずよしくんの呼称が変わる。図書券を渡しにAOKI家を訪れたときは「子供」だった。そして、チャット初日に早朝のAOKI家に忍びこむ際には「子供」と「青木くん」が混在している。最終的に青木夫人の呼びかけ以降は「かずよし」に落ち着く。

これは、朝子とかずよし少年とが打ちとけてゆく仲良しへの過程って言えるほど単純でもないと思う。知ったばかりの少年に対する朝子の警戒心が、青木かずよしを「子供」として距離をとり、チャット仕事の話で意気投合したあとには仲間意識のためか「青木くん」と呼んでて。そしてミステリアスな「青木くん」に「かずよし」という名前があると知ってからは、彼を「かずよし」と呼ぶ。地の文での一人称は朝子だ。朝子の心のなかで、「慣れない人を呼ぶときのぎこちなさ」が、心的距離と外的情報によって表現されてる。青木かずよしくんとの視点じゃなくって、あくまで朝子本人だけから見る、どんどん明かされてゆく「ゴミ捨て場の少年」の正体。そうやって理解できるとおもしろい。

そのころにひょっこり現れる光一が、朝子にとって現実とネットをつなぐ橋なんだよね。朝子は高校生。どうしたって学校に行かなくちゃ。単位だって、親の問題だってある。母親との距離に関しては、親子間のコミュニケーションという精神的な要因と、そこから派生して部屋に鍵をかけるという物理的な要因とがある。朝子はそういうものたちに対して「けっきょく現実は戻ってくるのかなー」なんて思っているかもしれない。とにかくドロップアウトしてもしきれない関係性が、ここにはある。朝子にとってその象徴が、光一だった。

でも、ある意味ではそして、つくりあげた自分は案外あっけなく消える。その原因は、先生が泣きながら親に電話をかけてくるからかもしれないし、仕事を休んだ主婦に見張られていたからかもしれない。あるいはひょっとして、子育てに集中するとか言って、切りのいいタイミングでコネクションを断ち切られるからかもしれない。そうやってネットから消えていく。もろいもんだ。

学校を選ばずに捨てた机や扇風機やバカボンド。おなじく学校を選ばずに得た30万と生身の人間への渇望。プラマイゼロ。でもいいよね、そうやってやり直せるならさ。

このブログを検索

自己紹介

自分の写真
好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

お問い合わせ

名前

メール *

メッセージ *

QooQ