おばけ屋敷ア・ゴーゴー

2015/08/24

essays

t f B! P L
夏に涼みたければ、おばけ屋敷に行くのが手っ取り早い。

そんな単調な理由で、友人ナツキとおばけ屋敷に行ってきた。たんなる遊びではなく、本格的に夏を涼みたかった我々は、インターネットで調べた結果のなかからもっとも恐怖度の高い星5つのおばけ屋敷におもむいた。

到着すると、「最後尾はこちらから」のボードの横に「ただいまの待ち時間 約一時間」と画用紙が付け足されていた。スタッフも予想だにしなかった混み具合のようだ。

しかし我々はこのうだるような暑い暑い真夏日を氷点下に押しこむべく参上したのだ。一時間くらいなんてことはない。そんなわけでナツキとしゃべりながら、列に加わった。

「あついねー」
ナツキは早々と気温35度に相応の感想をもらすと、
「ラムネでも飲みたいねー」
などとおばけもへったくれもない要望を口にする。

「いいかナツキ、俺たちは涼みにここへ来てるんだ。いまラムネなんて飲んでみろ、おまえはおばけ屋敷のなかで凍え死ぬぞ」

「ゔっ、そうか…。いまのうちに暑さを堪能しておかなくちゃいけないね」

おばけ屋敷の列に並んでいると、なかからとうぜんのように悲鳴が聞こえる。きゃー、いやぁー、うわぁー。

「ふん、そう来なくちゃおもしろくないわね」
ナツキは自信満々である。
「あっ、れお、あれ見て入口のスタッフのひと、特殊メイクしてる!」

覗きやると、このクソ暑いなか真っ黒なローブをかぶって、顔の半分はドクロ、もう半分は血まみれの人間(側頭部にナイフ刺さり済み)なひと(?)がいた。特殊メイクって汗で流れないのだろうか。ゆるキャラとおなじくらい心配である。

「れお、涼むぞ。いくら怖いからってわたしに抱きついてこないでよ」
「ホーンテッドマンションでアウトだったおまえに言われたくない」
「だってれおもホラー映画とか苦手じゃん」
「もうひとつ教えてやろう、血もダメだ」
「へぇ、わたしは幽霊とか妖怪もダメだよ」
「いい勝負だな。それでおばけ屋敷に来るとかそうとうな勇者だな」
「だろう? ねぇ、ところでなんでわたしたち、ホラー苦手なのにおばけ屋敷に来たんだろうね」

たしかに、言われてみれば原因不明な思いつきたった。

しかし、もう受付も通過してしまった以上、引き返すわけにもいかない。「大人二人お願いします」と、受付でばっちり入場料は支払い済みなのだ。

受付の際には説明も受けた。どうやらこのおばけ屋敷にはコンセプトがあるらしく、我々はおばけをくぐり抜けて、なにやら割れてしまった水晶のカケラを取りもどさなければならないのだ。ひと組ひとカケラで、客全員が寄せあって水晶の復元するという物語設定があるようだ。

さぁ、炎天35度のもと一時間も並び、いよいよ我々に順番がまわってきた。「次のかた、こちらに沿ってお並びください」例の黒ローブの特殊メイクのスタッフが我々を誘導する。そのときだった。

「れお…、わたし気分わるい」
「ナツキ…、俺もなんかお腹いたい」

なんとここへ来て二人同時ダウンである。

だって怖いのだ。なかから聞こえてくる悲鳴とか、妖艶な雰囲気とか、着々と眼前にせまりつつある不気味なドアとか。せめてどこでもドアみたいなポップなピンクならかわいいのに。怖い。これはどう考えても怖い。なかに入ると心臓発作で死ぬかもしれない。我々は二人して、この期に及んでいまさらすぎる不安をいだいていた。

あきらかに具合のすぐれない顔色の我々に、例の黒ローブのスタッフが熱中症を疑って駆け寄ってきた。

どうしました?
暑くないですか?
お水、持ってきましょうか?

見た目とは裏腹にやさしい…。でも黒ローブよ、我々はこんなところで引き下がるわけにはいかないのだ。なんとしてでも水晶のカケラを持ち帰りこの猛夏を涼うぇっぷお腹いたい。

とるものもとりあえず、後ろに並んでいたカップルに順番をゆずることにした。テントのある日陰のスタッフ席に避難させてもらい、パイプ椅子を二つ用意されそこに座りこむ我々。じつに情けないすがたである。

しばらくすると、奥からオフィスカジュアルな服装に身をつつんだ見目麗しいお姉さんがやってきて我々に告げた。

「あの、よかったら私が同伴して、屋敷のなかを案内しましょうか?」

我々は答えた。「イエス」

もう即答でお願いしますである。お姉さんの権限で、テントの日陰のところから入口に割り込み三人でおばけ屋敷のなかに入る。見ればみるほどこっけいなものを見るような視線を感じたがそれどころではなかった。

そして入場後約一分、なにかがコツンとぶつかる物音がした。「ひゃっ」「うわっ」大仰にビビる我々。しかしお姉さんは冷静かつ沈着に

「お客さま、まだ恐怖ポイントではないので大丈夫ですよ」

はい。

その後も「このさき首吊り人形がありますが模型ですのでご安心ください」「このドアを開けると包帯人間がいますが中身はただの人間ですので心配はいりません」等とネタバレ全開で案内してくれる。もう怖くない! 怖いものなんてない。愛してる、愛してるよお姉さん。

おかげさまで我々も「へぇ、これが首吊り人形かぁ」「おーおー出た出た包帯人間」などと余裕しゃくしゃくで屋敷内を闊歩できた。

あげくの果てに、おばけ屋敷の最重要ポイントである「水晶のカケラを回収」する責務さえもお姉さんがやってくれた。恋しちゃう、恋しちゃうよお姉さん。

「これを持って出口で渡してください。出口までは私が案内します。ここを折れてまっすぐ、あっ、右側の壁面に目がたくさん付いてますけどすべてつくりもののフェイクですのでご安心を」

最後までやさしく誘導してくれるお姉さんの仰せのとおりに、我々は終始お姉さんのあとに続いて歩いた。

「わぁ、目がいっぱい」
「ホントだー。あ、この目ナツキに似てる」
「アン?」

ここまでくるとなにがしたくておばけ屋敷に馳せ参じたのか道理がとおらない。

そして屋敷を出た。絢爛な装飾のなされたショーケースのようなガラスの入れものに(お姉さんが取ってきてくれた)水晶のカケラをそっとナツキが置く。まだ暑い陽射しが、木の葉のすきまを縫いくぐるようにして降りそそいでいた。暑かった。

そう。結果から言うと、ぜんぜん涼まなかった。なんというか上手なガイドさんに美術館を案内してもらったような気分だ。屋敷内は空調がきいていて涼しかったけど、我々が想定していた慄然とするような感覚にはならなかった。あたりまえなのだけど。

さすが星5つのおばけ屋敷なだけあって、スタッフの対応も抜群だったように思う。しかしなんだろう、この達成感のなさは。夏の思い出づくりというより、社会科見学みたいな、この予定と現実のギャップ。

帰り道、風情のあるむかしながらの商店街を歩いていると、ちょっとした飲食店屋があった。メニューが不意に目についたので、ナツキにたずねた。

「…ナツキ」
「うん?」
「ラムネ、買って帰ろ?」
「うん」

とりあえず、僕もナツキも心臓と背筋は元気なまま、ラムネでノドをうるおした。

あぁ、涼しい。

けっきょく夏はラムネがいちばんなのだ。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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