記憶ちがいスコアプレー

2015/09/17

essays

t f B! P L
友人「さぁちゃん」とは、かれこれ10年来の付き合いとなる。

「付き合い」と書いたけど、じっさいのところ僕らは恋人どうしだった。中学生のとき、周囲の友達にバレないようにこっそりと付き合っていた。さぁちゃんとは通っていた学校がちがったため、会うのは土日とか祝日とか、文化祭の振替休日とかだったけど、塾もいっしょだった。

塾では、友達に隠している手前、開けっぴろげにあいさつしたりとか、二人でいるとか、極端なはなしイチャつくことはできなかった。それでも、週に二回、おなじ教室で会えるのは僕らなりにたのしかった。

僕の通っていた塾では、県規模で実施される学力試験の成績順でクラス編成が成されたため、テストの結果が悪くてクラスを落ちたらおなじ教室で授業が受けれなかったりと残念なときもあった。もちろん落ちるのは僕のほうだ。

たまに廊下ですれ違ったときに、さぁちゃんはさりげなくウィンクしてくれたり、教室がちがっても休み時間の合間を縫っておなじ教室にいようと計ったりもした。さぁちゃんが自分の中学の友達としゃべりがてら僕の(レベルの低い)教室に来てくれて、スキを見て手をふったりもしてくれた。そういうスパイごっこみたいな真似も好きだった。

さて、さぁちゃんとは高校に進学してから別れた。地元の公立高校の理数科に進学した僕とちがって、さぁちゃんは名古屋のミッション系の高校に進学した。会える時間も減ったし、なんとなくメールや電話をする機会も薄れて、フェードアウトみたいな感じで交際は終わったかにみえた。

20歳のとき、さぁちゃんからメールがきて、おもしろいはなしがあるから会おう(要約)とのことだった。

正直なところ、やましい気持ちがなかったと言えばウソになる。復縁というか、縁りをもどせるかも、といった気持ちは心のどこかにはあったかもしれない。でもじっさい会ってみると、さぁちゃんは「これ、おもろない?」と関西弁(どこで身につけたのだろうか)で言った。

その手には、「20歳の僕ら」に宛てた手紙が二人ぶん握られていた。

思い出したくもない黒歴史だった。闇に葬り去りたい過去だった。その青くさい手紙は、たしかなんとなく二人で書いたまま、やっぱり恥ずかしいからと、なしくずし的に処分されたはずのものだった。

そんな意外な接点から、なんとなくまたメールするようになって、いまにいたる。長くなったけど、ここからが今日のハイライトだ。

ひさしぶりに居酒屋で二人で飲んだ。さぁちゃんの日々の愚痴を右から左へ聞き流した僕は、ふと訊いてみた。「初恋って憶えてる?」

中学生の当時、僕らは初めての彼氏彼女だった。いま、高校の友人のいとこの友人の女の子(関係性はものすごく遠い)が中学生で、その遠い関係性を奇跡的にかいくぐって、僕にこんな質問がやってきた。「初恋とか、ファーストキスのこととか、いまも憶えてる?」いかにもお年頃な女子の質問だ。

そこでさぁちゃんに白羽の矢が立った。まず初恋に関しては、「そりゃあ憶えてるさ」と得意げなさぁちゃんだった。

「あれはわたしが小学二年生、いや三年だったかな。ひょっとしたら四年だったかも…」

憶えていないだろ、きみ。

しょうがないのでファーストキスについてたずねた。双方が認知しているが、僕のファーストキスの相手がさぁちゃんで、さぁちゃんのファーストキスの相手は僕(のはず)だ。

さぁちゃんはちょっと恥ずかしそうに「それは…だってさ、ほら…」ともぞもぞと顔が赤い。アルコールのせいもあって赤鬼のようだ。性格も込みで。

なんだかかわいそうだったので僕が切りだした。「塾の帰り道で、夜の10時まえだったよな。でも真夏でさ、暑いなか、公園の散歩道で…」

するとさぁちゃんがさえぎった。「受験まえの真冬のバス停でわたしから去りぎわにしたんじゃ忘れたか絞め殺すぞワレ」

痛恨の僕の記憶ちがいだった。最後の関西弁は恐怖そのものだった。

そうなったらさぁちゃんは酔いも忘れて本気を出してきた。「だれかなぁ〜、だれかなぁ〜。真夏の夜の公園の散歩道でれおくんはだぁれとチューしたのかなぁ〜。気になるなぁ〜」

神よ、このあたりでご勘弁を。

「わたしとのファーストキスを差し置いて印象に残ってるれおくんのチューのお相手はだぁれかなぁ〜」

こういうときの女性はほぼいじめっ子のボス級である。僕はブルブルと震えながら、財布から二人ぶんの飲み代を出した。本日のスコアプレーだ。

以前、さぁちゃんに「なぁ、わたしってどういうところがウザい?」と電話がかかってきたので、「平日のド深夜に元カレに電話して自分のウザいところ訊くところがウザい」と返したら

──おめーのそーいう実直すぎるところがイヤで別れたんだよ!

と鉄槌がくだった。

女って生態の知れない生きものだけど、さぁちゃんの地雷はどこに仕掛けてあるかさっぱりわからないので、きっと明日以降も僕は愚痴を聞き流すポジションをとろうと思う。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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