妄想レコード

2016/03/21

essays

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レコード店が好きなのだよ! ああ愛しい! マイ・スィートハート!

つい取り乱してしまった。早いはなしが、なぜこうもレコード店というものが減ってきているのかということだ。近所にも閉店してしまったレコード店が2,3ある。

というわけで、僕があたらしくレコード店を新設することにした。もちろん脳内にだ。

✳︎

大通りから一本なかに入って、繁華街へと突入する手前に、ちょっと目立たないレコード店がある。自動車のナンバープレートのような白い看板には控えめーなネオンがついていて、夜になると控えめに光る。イメージとしては映画『エンパイア・レコード』に近い。軒下に自転車を数台とめられるスペースがあり、そこに営業時間や定休日などを記した黒板がある。ちょっとシャレた雰囲気をだそうとして失敗した、といったようなミスマッチ感がまたいいオーラをかもしだしている。

店内に入る。びっしりとならんだ棚はそれでも閉塞感を感じさせるものではなく、どこかスッキリとした感じすらただよう。天井にはプロペラみたいななにかがまわっていて、おそらくは換気の役割を果たしている。

店長は奥でなにやら作業をしている。店員は2人で、ひとりはさわやかな笑顔が印象的な青年で短く切った黒髪をワックスでアップにしている。もうひとりはいかにもロック・マニアな洋服に身を包んだのジャック・ブラック風20代後半、といった感じだろうか。やや青ひげぎみで、目をギラギラさせてオアシスの『ヒーザン・ケミストリー』のジャケットに見入っている。

「『ノー・ニューヨーク』というアルバムをさがしてるんですけど…」と、ちょっとマニアックなCDのことをさわやかな店員さんにたずねたら、「コンピ(コンピレーションCDのこと)ですよね。すぐお調べします!」とさっそくこちら側の言わんとするCDのジャケットまでもを思い浮かべてくれる。「何度か再発しては廃盤になってのくり返しですからねぇ」なんていうサイドインフォもバッチリだ。

しかしそのCDの在庫が店頭にもメーカーにもない。「ちょっといつ入ってくるかはわからない」とのことだが、僕が落胆する以上に店員さんが肩を落とす。お客さまの期待に添えなくて申しわけない、という気持ちもさることながら、なぜ再発してないんだ…! という思いもつよい。

「しょうがないですね、メーカーに在庫がないのなら」と僕が言うと、「超名盤ですよねー。なんでこのアルバムが廃盤なんだか…。まったく嘆かわしい時代です」といっしょに落ち込んでくれる。

そんなガッカリを連行しつつも店内を徘徊する。手狭な敷地ながらもところせましとならべられた棚には、J-POPからパンク、エレクトロ、ファンク、レゲエ、クラシック、ジャズ、映画音楽、アニソン、海外の音楽はビートルズからK-POPまでもを網羅している。決して豊富な品揃えとは言えないが、数少ない在庫は客の求めるモノをピンポイントで狙いすましており、ここにくるといつも目的のCDがある。

そんな棚の一角に、「店長のオススメ」というコーナーがある。店長は活発な店員とは対照的に無骨で、いつもムスッとしている。一見して社交性がないふうだが、音楽のこととなると目の色を変えて雄弁になる。そんなイカした店長だ。

「店長のオススメ」とは、店長みずから(ときに店員も)が厳選したCDをディスカウント販売するコーナーだ。率直に言って、良すぎる。率直に言って、どれも名盤だ。率直に言って、ぶっちゃけ店長かなりこだわってる。そんなコーナーだ。そこにはthe brilliant greenの『The Winter Album』や、コーネリアスの『THE FIRST QUESTION AWARD』をはじめ、ジェスロ・タルの『アクアラング』やスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『スタンド!』などまでもが貫禄のラインナップだ。

そんな感じで僕が2枚のCDを手にとって見比べている。片方は、ジャケットが好みだけどどんな音かわかんない。もう片方は帯のレビューでだいたいの想像はつくけど、いままで帯のレビューみて買って当たったためしがない。そうやって迷っていると、さきほどのジャック・ブラック風の店員がやってきてタメ口で説明してくれる。「あぁそれな(ジャケットが好みなほうを指さす)。サウンド的にはニッケルバックに近いが、俺的には下手にエレクトロ混ぜてるからクソだ。そっち(帯レビューのほうを指さす)は1曲目はサイコーだが、残りはぜんぶカントリーだ。やめといたほうがいいぜ」

「そんなのよりも」とジャック・ブラック風の店員が言って棚からCDを取りだす。「これなんかどうだ? ジ・アドヴァーツの『クロッシング・ザ・レッド・シー・ウィズ・ジ・アドヴァーツ』。ロンドンパンクで有終の美を飾った奇跡の名盤だ。デリケートで表情豊かなボーカル、触れたら切れそうな鋭さと、触れたら壊れそうな繊細さをたたえるギター、疾走感を絶やさないドラム、必死に食らいつく初心者のベース…あぁ〜惚れ惚れする! 5曲目の「ニューボーイズ」を聴いてみな。すぐに虜になっちまう」 ふつうに考えてこんな接客の日本人は社会人失格だが、イメージがジャック・ブラックなのだからしかたない。

といわけで『クロッシング・ザ・レッド・シー・ウィズ・ジ・アドヴァーツ』をレジに持ってく。さわやか青年の店員が慣れた動作でパッケージのロックをはずし、迅速かつ丁寧に袋に入れてくれる。袋は黒いビニル素材で、店名のステッカーが貼ってありオリジナリティあふれる仕様になっている。テープの片端はもちろん折ってくれて、あとではがしやすいようになっている。店を出るときには、ジャック・ブラック風の店員が「いい音楽聴けよ」と手をふってくれる。

そんな「妄想レコード」は今日も脳内で営業中である。いつか実現してみたいものよ。




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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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