はたして人間の身体は完全に湯船に浸かることができるのか

2016/04/02

essays

t f B! P L
お風呂にはいるとき、いつもトライすることがある。

それは、「なんとか首から下を完全に湯船に浸けることはできないだろうか」という、空前のチャレンジだ。

人間はお風呂にはいる。銭湯や温泉ならまだしも、一般的な家庭の浴槽は、お世辞にも広いとは言いがたい。足を屈伸する余裕などないのだ。もしあったなら僕はとうにこのチャレンジを成功させている。

問題は「どうしても足を曲げなければ湯船にどっぷり浸かれない、」ということだ。すると、体育座りの場合、ひざ小僧のあたりが水面からちょろっと「こんにちは」することになる。

これを解消するには、より深く身をかがめることになる。しかしそうすると、上半身を沈めることになるので、こんどは下半身の先端、つまり足首から下の部分が水面から「こんにちは」だ。

そこをなんとか足首を沈めようとしても、足の指まではなかなかどうしてうまく湯船に浸かってくれない。

20歳を過ぎた男がひとり風呂場で足を組みかえてはさまざまなポージングをしている図を想像していただきたい。率直に言って、気色悪い。僕はカメラマンの指示もないのに文字どおりまる裸であんなポーズやこんなポーズをとる。そのたびにわずかに波打つ湯船。気色悪い、ああ気色悪い。

そうか、正座したらいいのか! そうすればやっかいな足は浴槽の底部におさまることになる。完ぺきじゃないか。俺、あったまいぃ〜。

甘かった。正座した場合、胸から上がどうしても「こんにちは」なのだ。いちおう説明しておくと、人間の胸部は四肢とちがって関節がないので、動かして収納したりなどができないのだ。そしてこの説明はおそらく人類には不要だったろう。

とにかくこれでは胸から上が出ている状態だ。僕は身体を前に倒し、なんとか胸を湯船に浸けることに成功した。するとこんどは背中が「こんにちは」ではあるまいか。ならば逆だ。身体を後ろに倒し………ガンッ。痛い。風呂場の壁に頭をぶつけた。方向転換が必要だった。

僕は浴槽の端で近いほうの壁をじっと見すえて正座し、こんどは頭を打たないように(打つはずもないのだけど)身体をゆっくりとリクライニングした。ゆっくり、ゆっくりと、ソファにもたれかかるように背中をあずけてもたれかかバッシャーン!!!

背面から湯船にダイブした。鼻の穴にお湯が入ってものすごくいやだ。考えてみれば、ソファのないリクライニングなど空気椅子のようなものじゃないか。僕はべつに背筋を鍛えようと思ったわけではないのだ。ただ身体を湯船に浸けたかっただけなのだ。髪の毛もビシャビシャのツヤツヤだ。

もういちど背面入水にチャレンジする。浴槽の尺をフルに使って、身体を慎重に倒していく。かなりのところまでいった。胸は完全に使っているし、腹部も出ていることはない。しかしどうしたことか、鎖骨あたりがどうしても沈んでくれないのだ。これはひとえに僕の身体の柔軟性であり、はやいはなしが身体が硬いというわけだ。

こうなれば最終手段をとるしかない。僕は浴槽の側面に背をあずけ、あぐらをかく。つまり、浴槽の長いほうの側面に背中をびっちりつけているわけだ。こんなふうに風呂にはいる人間は、おそらく僕ぐらいのものだ。あぐらをかいたぶん、横に体積をとられるわけだが、正座のときとちがい、おしりは完全に浴槽の底辺についている。つまり胸ちょい下くらいまでは浸かることができているのだ。この状態で、なんとか肩を落としていけば、首から下を湯船に完全に浸けることができるのではないか。

しかも、だ。胴体の部分の高さをすこしでもおさえるために、おしり(というか股間)は前のほうの側面につけて、背中を後ろのほうの側面につけるという姿勢をとった。文章では伝わりづらいのが残念だが、ようは身体をノの字のかたちに曲げてタッパをおさえているわけだ。もう僕の首以下では鎖骨しか「こんにちは」していない。

この状態で肩を落としていく。理屈上これで可能なはずだ。いけるか…どうだ…。おっ、なかなか、これは、うん、えっ、ひょっとして、でき…てる…? もうちょい、もうちょいで完ぺき…あっ! 痛い、痛いっ! 足っ、つった! ちょっ、ここお風呂っ、だれかっ、いやおらんし、だれか、だれかー!


このように、毎回トライはしているのだが失敗に終わってしまう。しかし、失敗は成功のもとというじゃないか。さぁ、今夜もやってみよーっと。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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