ラムネ

2016/07/16

essays

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ラムネっていう飲みものがこの世にはある。たぶんあの世にもある。だっておいしいんだもの。しかしながらラムネ、もはや説明するのも億劫になるくらいのポピュラリティあふれるこの愛らしい飲みものは、ときとしてひとを苦しめる凶器にもなりうる。あれは小学生のときだった。何年生かはおぼえてないけど、夏だった。

夏………海。
夏………TUBE。
夏………ラムネ!

夏の風物詩トップ3にランクインしてもおかしくないラムネ。なんてすてきなんだろうラムネ。愛してるラムネ。アイ・ラブ・ラムネ。

そもそも色味がすばらしい。あの青とも緑ともつかないスケルトンカラーのビン。夏のうだるような暑い日に、冷気をもとめて冷蔵庫を開けると、海色のおいしそうな飲みものがある。考えただけで涼しい気分になる。色味がすばらしい。言いたかったから二回も言ってしまった。

なんといってもビー玉。軽くビンを揺すると、カランカランと音を立ててなかで転がるきれいなビー玉。男子の子供心を揺り動かすにはもってこいの神秘的なビー玉。透けて見えているのに手に取れない、あのもどかしさ。そう、あのもどかしさがもとで、ぼくはビー玉を敵にまわすこととなったんだ。

もういちど言うけどあれは小学生のときの夏だった。当時、夏祭りが家の近所であった。とうぜんそこにはラムネも売られているわけで僕は同級生に大人気だった射的よりも、たんなる炭酸飲料水であるラムネが楽しみでしかたなかった。いま思えばどこでも買えるようなものを、わざわざ夏祭りという年にいちどのイベントにもとめなくたっていいと思う。

この夏祭りのシステムが前売り券制で。事前に町内の回覧板にて「飲みもの券」を申し込んでおかないといけない。ほかの模擬店も同様で、それぞれ事前になにをやってなにを食べるかを決めておく。その「飲みもの券」っていうが、アクエリアス・オレンジジュース・緑茶などから一本だけ自分の好きな飲みものを選べるという仕組みだった。もちろんラインナップにはラムネもあり、僕は迷わずラムネを選んだ。アクエリアスをえらぶ友人を信じられないという目で見たこともある。僕にはラムネ一択だった。

そしてまぁ、夏祭り当日に嬉々としてラムネをぐびぐび飲んでいたわけだ。ラムネっていうのは、なかにビー玉が入ってることはご承知のとおりであるけど、アレは子どもが誤って飲み込まないようにうまくできているんですね。上下逆さにしても、飲み口の直径がビー玉よりも小さいからちゃんとつっかえるようにできている。だから最後のほうはビンを傾けて飲むわけで、ひと口ごとにビー玉が飲み口を密閉してしまい、舌で押しながらちょろちょろと飲むことになる。ハムスターみたいだ。

この設計は考えてみると、これもまた愛らしいラムネの風合いだなぁと思えるんだけど、当時の僕はなんだかめんどくさいなと感じてしまった。そこで思ったのが、

「なんとかビンのなかにあるビー玉を取り出すことはできないか」

ということだ。

まず、あらかじめ書いておく。ラムネっていうのはさっき言ったとおりビー玉が飲み口から出ないようになっているのだけど、飲んだあと飲み口をクルクルとペットボトルのキャップの要領ではずせばちゃんとビー玉が取り出せるシステムだ。

しかし、小学生だった僕は「この飲み口につっかえるビー玉を、飲み口をはずさずに力ずくで取り出せることはできないか」と思ったわけである。

物理的に無理だ。できるとしたらマジシャンか、あるいはビンを破壊するくらいしか手段はない。これを僕はがんばっちゃった。

ラムネのビンを逆さにして、重力にそってつっかえるビー玉を、舌でつつきながら「このっ、このっ」とがんばった。これが、けっこうな力のいる作業なのである。あごの筋肉もなにやらぴくぴくしている。なんだろう。あのときの「これはイケるかも!」という確信は、いったいなんだったのだろう。

案の定、ビッチリはまった。舌が、飲み口に。

生涯の馬鹿でもヤバいってさすがに思ったよね。自分の舌が、ありえないくらいの長さになって、ビンの飲み口にはまってる。これアカンやつや、大人呼んでもらわな対処できんやつや、と。

とはいえ「夏休みにラムネのビンに舌がはまって抜けなくなった子」なんて、きたる新学期の絶好の笑いのタネではないか。武勇伝(?)として三週間はバカにされるレベルではないか。僕が第三者だったらそれくらいする。

そう思って「これは俺の闘いだ」と、わけのわからないタイマンに僕は挑んだ。はた目には気づかれなかったはずだ。

なにしろふつうにラムネを飲んでいるひとと、舌のはまったラムネのビンを顔のまえで手に持っているいまの僕は、外観のビジュアルでは区別できない。僕はひとりこっそり友達の輪を抜け出して、祭り会場の隅に行き、あごの筋肉を絶妙に保ちながら、舌をあれこれと動かす。

①まずはキュッと舌全体をしょぼめてみる。抜けない。

②次にのっぺりと平らにしてみる。抜けない。

③レロレロと無造作に動かしてみる。痛みが増した。抜けない。

④軽くビンをこづいてみる。やはり抜けない。

アカンやん、これアレやん、あとで世界仰天ニュースとかで「舌が抜けなくなった子ども」みたいな見出しで放送されるかもしれんやつやん。じわじわと募るデンジャラスな雰囲気。ひと足さきにせまる「新学期に学校いきたくない」のわがまま。

本格的に危機感を抱きはじめたころ、舌をクネッと折りたたむようにして空気の抜け道をつくったら、舌は抜けた。およそ三分間にわたる苦闘の末、僕はラムネに勝利した。だれにも知られることのなかった闘いが、ここに終息した。

最初から素直に飲み口をはずしてビー玉をとりだせばよかったのだが、なぞの意地もあった。「ぜったいに、飲み口をはずさずにビー玉を取りだしてやるんだ」および「いまの僕ならできるモン!」という、見当ちがいのやる気と自信。

あの当時以来、大人になってしまった僕は、ラムネを飲む機会がめっきり減ってしまった。それでも、いまだにストローを差すかコップに移すかしないと、飲めないよね、ラムネ。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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