おっぱい攻防戦

2016/07/21

essays

t f B! P L
とある土曜日の夕方、地元の駅前の居酒屋にて飲み会が開催された。僕をふくめて人数は4名。飲み会というよりただの友達どうしのあつまりである。場所がたまたま居酒屋であっただけだ。すこしでも大規模な集いであることを偽ってアピールしたかったけど、どのみち読みすすめるにつれ登場人物のすくなさからその虚偽はバレるだろうからあらかじめ白状しておく。友達4人であつまった。それだけ。

僕のほかには、高校時代の友人であるNちゃんと、おなじく高校時代の友人であるKくん。そして、我々の高校時代の先輩であるYさんであった。ようは高校時代の仲間でスケジュールを合わせてたのしもうという趣旨の気楽な飲み会だ。…訂正する。「あつまり」だ。

Y先輩と僕は、彼が高校を卒業して以来、まったく会っていなかった。NちゃんとKくんは、Yさんとおなじ大学だったということもあり、わりと頻繁に顔を合わせていたみたいだけど。つまり簡単にいってしまえば僕だけ進学先のちがうアウェーである。内輪ネタなんてされようものならウーロン茶をひたすら飲もうと、心して参加した。


ちなみに僕はお酒が飲めない。酒に関してはひどい悪癖があり、酔っ払うとシラフではぜったいにやらないことに手を伸ばすどころか、翌日にはその記憶をスッキリと忘れている、という傍若無人な立居振舞をしてしまうので、自重するようにしている。

例を挙げるならば、テーブルに置いてあるお手ふきのミニタオルをひろげて友人の顔に乗せ、「見て見てー、死んだひと、死んだひとー!」などという不謹慎の度を超えた一発ギャグまで披露する。

よって僕は居酒屋でもウーロン茶しか飲まない。ただでさえひどい僕の株をこれ以上も下げるくらいなら、飲まないほうが幾分マシだ。

はなしをもどそう。飲み会、もといあつまりである。

Y先輩はさっそく30分の遅刻をかましてきた。運の悪いことに、それを待っている間にネクタイを頭部に巻いているすでに出来あがったサラリーマン御一行に、座席を取られてしまった。

予定どおりに集合した我々3人は、ネクタイを頭部に巻いた酔っ払いのリーマンという希少種がドラマだけのはなしではないのだという事実に、ただただ愕然と立ちすくむしかなかった。可愛らしい水玉模様のネクタイを巻いている者もいた。きっと奥さんと娘さんとで、お父さんにプレゼントされたのだろう。まさか頭部に巻かれるとは想像だにしなかったにちがいない。くわばらくわばら。

カウンター席なら用意できるということで、我々3人はY先輩のぶんも席をとって、カウンターに座した。さて、先輩がくるまでになんか頼むか、と乾杯の第一声をKくんが発した瞬間、居酒屋のドアをいきおいよく開けてY先輩が入店した。土曜の夕方からいったいなにに乾杯なのかKくんの発言も妙だが、先輩もどうせくるなら後輩たちだけの時間もつくったうえで遅刻してほしいものである。

右から順に、僕、Nちゃん、Kくん、Y先輩という座順になった。内輪ネタを展開されたときにこっそりツイッターでもできるように、僕はいちばん端に席をとった。Y先輩がもう片方の端なのは言わずもがな遅刻してきたためである。

Y先輩は久々に会うとものすごく太っていた。大学生から社会人になる4、5年のあいだに、30キロほど増量されたようで、僕は最初だれだかわからなかった。「いやぁ〜、遅れてごめん。それにしてもみんな変わらねぇなぁ。お、れおはすこし太ったか?」

あなたほどではないんですけどねぇ。…とはもちろん言えず、「はぁ、まぁ薬とかいろいろ飲んでて、その影響もあって」とお茶を濁した。

内輪ネタの心配は杞憂に終わり、我々4人は高校時代の思い出ばなしを中心に盛りあがった。1時間もすればNちゃんはすでにお酒がまわっており、Kくんにいたっては完全に出来あがっていた。

このとき、カウンター席でY先輩からいちばん席が離れていた僕は、彼がどれくらい酔っていたのかあまりおぼえていない。しかし、酒のいきおいなのか、Y先輩は驚愕のひとことを言い放った。「Nって、おっぱいおっきいよね」


とつぜんのセクハラ発言である。この時期はたしかに夏であり、Nちゃんも薄着で、かつ胸元がちょっとだけ開放的な洋服を着ていた。先輩はそれを見やり、おっぱいだけにポロリと言ってしまったのだろう。…うまいことを言っている場合じゃない。これにはNちゃんもやや驚いたようで「え〜、高校のときからそんなに変わってないですよ〜」と返したものの、先輩のセクハラ発言はとどまることを知らない。「ちょっとさ、一回、一回でいいから、さわらせて?」

⁉︎

なんと、セクシャルハラスメントを働いたどころか、こんどは堂々の痴漢の許可申請である。ただ、Nちゃんもお酒がまわっているので、あからさまに拒否の姿勢をとるわけでもなく、「えぇ〜、お・さ・わ・り♡ ですかぁ〜?」などとそれとなくごまかしている。しかしウーロン茶しか飲んでない僕は、お・さ・わ・り、のあとにハートマークがついたセクシーな発音を聞きのがさなかった。
先輩はなおも食い下がる。「お願い一回だけ。一回だけでいいからさ、揉ませて?」

もう「揉ませて?」などと性に正直な表現がハッキリと飛び出している。どうしよう、止めるべきか。いやしかしNちゃんも心から嫌悪しているようすもない。

「えぇ〜、どうしよっかな〜♪」むしろルンルンである。おもしろいから、しばらく放っておこうか、と思っていたら、ルンルンなNちゃんは友人関係に亀裂が走るレベルの発言をした。「わかりましたよぉ〜。じゃあ〜、先輩じゃなくて〜、Kくんにさわらせてあげます♡」

‼︎

僕は思わず頬をつねった。ドラえもんのひみつ道具のひとつに「夢たしかめ機」なる、ひとのほっぺたをつねるだけの非近未来的な道具があるのだが、もしそれを使うとしたらいましかないと思った。

完全に酒がまわっていたKくんも、これには完全に酔いが醒めたようだ。えっ、いいの⁉︎ あ…あざーっす! そんなうれしそうな顔をしていた。顔が紅潮していたのは酒のせいか興奮のせいか定かではない。

そしてKくんは揉んだ。なんだろう、この文字に起こしたときに感じる情けない響きは。「そしてKくんは揉んだ」

先輩は問うた。「…どう?」

Kくんは答えた。「や…やわらかいッス」

そしたら先輩はもう本気をだしてきた。「えっ、ちょっ! ズリィじゃん不公平じゃんコイツなんもしてないじゃん!」たしかにそうだ。が、僕よりひとつ年上にあたる社会人のひとが、こんなに必死になって後輩のおっぱいを揉みたがっている。しかも相手は「おっぱいをさわらせてくれる女の子」なのだ。このカオスな環境で僕はシラフなだけに関わりたくないので、そっぽを向いてツイッターのタイムラインでも読んでようかと思ったそのときだった。Nちゃんが言った。
「わかりましたよぉ〜。じゃあ〜、こんどはれお♡」

俺⁉︎

やられた! これは予測できたはずの展開だ! くそ、経験を活かせなかった!

なんて考えている場合ではない。いま、僕は友達の女の子に「おっぱい揉んでもいいよ」と許しを得ている。こんなに堂々と人前でおっぱいを揉む機会、AV男優にでもならないかぎり永劫ないかもしれない。

そして僕は揉んだ。さきほどKくんが揉んだときの描写を「情けない」と形容したが、矛先が自分に向いているとなおさら情けない。

先輩は問うた。「…どう?」

僕は答えた。「や…やわらかいッス」

デジャヴである。先輩がこんなにがんばっているにもかかわらず、それまでだんまりだった僕とKくんが恩恵を受けている。

こうなったら先輩は本気どころかなにを犠牲にするのも厭わず懇願する。「なんで⁉︎ コイツらなんもしてねぇじゃん! なんなの俺のなにがいけないの⁉︎ なんでもするから言って!」

おっぱいを揉むためならなんでもするという先輩。不思議と、かわいい…。そんな先輩の愛らしさをNちゃんも感じたのか、最後には「わかりましたよぉ〜。先輩にもさわらせてあげますぅ〜」


ぃよっしゃあああああああああああああああ‼︎


先輩は叫んだ。「揉んだぁぁぁ! やっと揉めたぁぁぁ!」

もう人生に一片の悔いもなしといった感じである。先輩は悲願だった「おっぱいを揉む」ことに成功したのである。いまここにいる男性全員が、Nちゃんのおっぱいを揉んだ、ということになる。

しかし先輩は、隙あらばつぎの機会を虎視眈々とねらっていた。Kくんがトイレに席を立つと、サッとNちゃんのとなりであるKくんの席に移動し、「お願いワンモア揉み。ワンモア揉みお願い」と懇願する。いちどゆるしたNちゃんも「しかたないなぁ〜」といったふうに許可をだす。

Kくんが電話でまた席を立つと、目を光らせて颯爽と移動し「ワンモア揉みください。ワンモア、ワンモアだけ」と再度懇願する。「じゃあいいです」とNちゃんも言う。

いったいNちゃんは、この時間だけで我々、とくにY先輩におっぱいを何回ほど揉まれたのだろう。酒のいきおいとは強力だ。なお、くりかえすが、僕だけシラフだ。

もしかしたら、Nちゃんは酔ったと見せかけて我々になにかトラップを仕掛けていたのではないかと怖くなって、僕はNちゃんにこのときの一連の攻防戦について訊けないままでいる。つつもたせ、とまでは言わないが、なにかそこにつけ込んで弱みを握られるのではないか。きっとあのとき瞬間的に酔いが醒めたKくんもそう思っているだろう。

先日、僕はNちゃんとY先輩と会った。Kくんは残念ながら居合わせることはできなかったが、我々3人が会うのはくだんのあつまり以来だった。先輩は言った。「N……、ちょっと、ほんとうはあんときの居酒屋の会計んときに言おうと思ったんだけど……」

おお、先輩。あのときのセクハラを詫びるのか。そうなると僕も詫びなければいけなくなるのだが、まぁ僕はNちゃんのほうから許可を得たのでいいだろう。ともかくいまは先輩の謝罪を見届けよう。

先輩は照れるように、モジモジとこう言った。「もう一回、ワンモアだけ、ワンモア揉み、できないか?」

未練タラタラかーい‼︎

「しかたないなぁ。最後ですよ?」

しかもOKかーい‼︎

先輩が先輩なら、NちゃんもNちゃんだ。僕は、とてもいい友人関係にめぐまれているのだと感じた。しかし、それもどうなのだろう。おっぱいをさわらせてくれる女性、すくなくとも僕のまわりにはNちゃんひとりしかいない。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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