まくらPK

2016/07/01

essays

t f B! P L
あづい。

暑い夜には、怖いはなしか雪のはなしを思い出すにかぎる。あれはまだ小学生の時分の冬だった。

冬休みにスキー合宿というものがあった。学校行事でもクラブ活動でもない、ただ地域のみんなであつまってスキーしに行くだけという、合宿の名を冠するにはそこばくの抵抗が感ぜられるささやかな会だった。

僕はたしか小学校4年生だった(はずだ)。宿舎の部屋割りは登校区域別に分けられていた。たとえば一丁目は101号室、といったぐあいだ。学年別じゃなかったのは、低学年から高学年まで水いらずで仲良くしようという町内会の目的があったにちがいない。じっさいどの部屋でも、夜は惰性のように大富豪に明け暮れ、朝は眠たいなかスキーに参加するという感じで、もはやなにをしに泊まりにいっていたのか、いまとなっては正直どっちでもいい。

僕は、というか、我々は八丁目チームに振り分けられ、部屋は大部屋だった。子どもに大部屋をあたえるのはあまやかしすぎではないか?と思われるだろうけど、そこには理由がある。

我々の住んでいた校区では、一丁目と二丁目が両巨頭をなすくらい児童が多かった。よって、一丁目と二丁目の児童たちをそれぞれひと部屋にまとめるのは、大部屋を借りてでさえ無理だと判断され、一丁目A組、一丁目B組、二丁目A組などといったふうに細分化された。それくらい多かったわけだ。

けれども我々が群をなす八丁目は人口がすくなく、みんなで大部屋に入るくらいの人数だった。かつ、我々八丁目はどうしたことかふだんからとても仲が良く、保護者のあいだでは「あいつらは大部屋があったらとりあえず全員まとめてぶち込んどけ」という暗黙の通奏低音があった。

そんなわけで大部屋で広くのびのびとした空間をあたえられた我々八丁目在住の一同。遊び盛りのガキどもが、大部屋に入れられて大富豪などしていられるか、という謎のやんちゃ空気感はあっという間に浸透し、想定どおりの枕投げ大会が開始された。

しかしそれも5分で終わった。

枕投げ──それは雪合戦とおなじくらい、ルールがわからない遊びのひとつだ。子どもだった我々はすぐさま飽きた。そして思いついた。「そうだ、PKやろう!」

「京都に行こう!」と同レベルの安直さである。しかし、当時6年生だった分団班長の安藤くんの賛成をきっかけに一致団結した我々は、枕でサッカーするというアホもたいがいにすべきな行為に走った。

そしてそれは30分以上つづいた。

枕投げに5分で飽きた子どもたちでも、枕PKだと長続きするのだ。我々はいいかげんな線引きでゴール範囲を決め、蹴っては守りの攻防戦を繰り広げた。そうなると、みんな動くからとうぜん室内は熱気で暑くなる。とはいえ、季節は冬である。暖をとるのに困るシーズン、冷える手段には事欠かない。窓を開ければいいのだ。大部屋では班長の安藤くんが5年生の橘くん相手にPKを蹴った。すこし力が入ったのか、蹴りミスして枕が逸れた。

そのとき歴史は動いた。安藤くんのミスキックが部屋の右隅に逸れたその瞬間、僕がすこし涼もうと思い窓を開けたところを、ものすごくいい感じに枕が突き抜けていった。

僕が「あちぃ〜」と開けたと同時に、スンッと枕がそこをピンポイントですぎて、屋外へと放たれていった。雪原のなかに枕が刺さったのを、だれもが見届けた。あと1秒、キックと開窓のタイミングがズレれば、防ぐことができた事態だった。

「うわ〜、これどうしよう…」
「だれ取りに行く…?」
「これ取りに行けんのか…?」

口々に狼狽する我々八丁目に、安藤くんが言った。「いや、でも雪白いし、枕も白いから、だいじょうぶじゃね?」

それはないだろう! となって、けっきょく窓を開けた僕が外まで取りにいった。安藤くんじゃねぇんだ!? とはいまでも思うし納得いってない。大部屋にもどると雪原のなかに僕の往路と復路が深々と踏み刻まれていた。

そしてその後もPKを、それでも懲りずにPKをやっていた我々だが、またも安藤くんがやっちまった。

なおもミスキックだった。安藤くんのシュートは上昇気流がごとく真上へと蹴り上げられ、大部屋の蛍光灯と衝突した。ガタン! と一瞬ゆれる室内に、シーン…と降り落ちた沈黙。蛍光灯は30度くらい斜めに曲がっていた。

安藤くんは言った。「これは内密に」

しかしここは大部屋ということを忘れていた。大部屋はあるていどの人数が大人でも入れるため、ミーティングに使用されるのだ。つまり保護者たちが来る。内密にするには隠蔽工作をするしかない。

「これは気づくだろ…」
「さすがに無理があると思う…」
「隠せんのかこれ…」

またも口々に狼狽する八丁目一同に、今度は僕が言った。「下に視線をあつめよう」

上で蛍光灯が壊れているなら、下に視線をあつめればなんとか隠しとおせるのではないか。「それだ!」「レオ、天才だ!」となり、我々は試行錯誤しながら隠蔽工作を完成させた。

『空き缶を積んでオブジェをつくる』という…。

「これでだいじょうぶだ!」
「こうなれば空き缶に目がいくぞ!」
「蛍光灯の件はバレずに済む!」
「レオ天才、よくやった!」

安穏とした雰囲気が室内にただよいはじめる。児童たち一人々々に配られていたポカリスエットの空き缶を利用したのだった。疲れていたせいかそのオブジェを積みあげた直後に消灯した我々は、朝までぐっすり寝た。そして翌朝、やってきたミーティングの時間──。

町内会長や保護者の面々が室内に足を踏み入れる。さぁどうなる、さぁどうなる? と緊張にドキドキしていた我々。最初に入ってきた会長が、2歩くらい進んだそのときだ。「おい! おい蛍光灯、蛍光灯ゆがんでるじゃねぇか!」

一瞬でバレた。

大人たちはだれひとりとして空き缶のオブジェに目をくれることもなく、30度ゆがんだ蛍光灯に気づいた。ものの1秒で打破された「天才」の称号がかなしく響く。さらに動揺した我々八丁目一同は、ガラガラガラッとそのオブジェをくずしてしまった。

いちおう蛍光灯の件は大人の力でなんとかなったものの、オブジェをくずした最後はただゴミを散らかしただけである。散々に怒られ、その日の食事当番はすべて八丁目の児童たちの手で進められた。神罰がくだった時間だった。




いやー、思い出してみたけどこれ寒くもなんともないな。冷や汗って意味ではあってるけど。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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