小説探偵ナンバーミー

2016/08/22

essays

t f B! P L
聞くは一時の恥、聞かぬはあとでググれ。だがしかーし! あかの他人の読んでいる本のタイトルをリサーチするという僕の小説探偵としての使命はまだ終わっていない。

たとえばバス停。ベンチに座っているおばあさんの読んでいる本が、とても気になる。なぜなら、彼女はとてもたのしそうにその本を読んでいるからだ。人生とはなんぞやを悟った老婦人ならではの、あの含蓄のあるほほえみたるや、名推理後の僕のしたり顔なんのそのである。

たとえば電車内。たまたまとなりに座ったサラリーマンふうのおじさんの読んでいる本を、横から盗み読みする。これがなかなかおもしろく、「おじさん! はやく次のページめくって! あと4分で降りる駅なんだから!」と僕はテレパシーをおじさんの心のなかに直接語りかける。

こんなふうにして、「僕は他人がなにを読んでいるのか」をとても気にする。わかってる。「すみません、横から勝手に読ませてもらったのですが、おもしろい本ですね。だれの作品ですか?」って訪ねたほうがはやいって。でも時代はデジタルだ。インターネットだ。聞かなくてもあとで検索すれば一生の恥とならずに済むわけだ。

今朝の電車内ではとなりの同年代っぽい大学生の男の子がおもしろい本を読んでいた。しかし例のごとく僕の降りる駅まででタイトルを突きとめることはできなかった。「どうやら結婚というものに強いあこがれを抱いている朋美が、友人の紗雪の結婚になにかひみつがあるということを知るはなしらしい」ことはわかった。しかしGoogle先生はなんでも知っている。盗み読みから得た断片的な知識「紗雪 朋美」といった人物名や「結婚 パーティ」などのキーワードを検索窓に打ちこむ。すぐにその本が飛鳥井千砂さんの『アシンメトリー』だとわかった。こんなもんだ。

小説探偵になるためのスキルはそう高くない。しかしここまで書けばおわかりになるだろう。そんな僕にとって、最大の天敵は書店カバーである。

書店カバーはたしかに便利だ。それぞれの書店が趣向をこらし、紙質やデザインにこだわった快作と言えよう。じっさいのところ、あれはいいものだ。無料で本を保護することができるし、表紙のスレや汚れを気にしなくてもいい。色とかもなんか選べるのもある。僕みたいに公共の場で本にムラムラしている変質者の目から本を守ることもできる。

しかし、小説探偵は書店カバーごときで推理をあきらめたりはしない。開かれているページ上部もしくは下部に、本のタイトルが書かれていることが多いことくらいは、初歩的な知識である。とはいえそれではまだツメが甘いこともある。短編集などの場合、本のタイトルではなくその章のタイトルである可能性は否定しきれないからだ。

それじゃあどうするか。攻めるポイントを変えればいい。

たとえば文章のフォント、紙の質感、天部の処理、文体など、枚挙にいとまがない。

盗み読みした文章のクセやジャンルから、どういった作風の著者なのかをザツに見当をつける。このあたりは読書量がモノを言うので、経験あるのみだ。

つぎに「天部がギザギザしている……となると新潮文庫か岩波文庫あたりか」「この消えそうな細い書体、角川文庫とみた」といったふうに、デザインから出版社名をおおかた推測する。

最後に決定的な証拠を確認できるように、「88ページの書き出しが『いまいち落ち着かなかったのだが、なっちゃんはハマってしまった』だな」とおぼえておく。

あとは書店や図書館で、推測した出版社や著者の刊行本の88ページ目をあますとこなくチェックすれば、犯人が判明する。一件落着である。

落着じゃない! 犯人が判明したからには、取り調べを行わねばなるまい。つまり、読むのだ。買うなり借りるなりして、読むのだ。そこではじめてこのリサーチは完了するのである。


電子書籍では本に出会えないとはよく言われるけれど、そういう意味では書店でもなかなかできない会いかたなのである。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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