【感想】最強のふたり

2016/09/05

感想

t f B! P L
こういう関係、いいなと思う。

ドリスは、頸髄損傷で首から下が麻痺して動かないフィリップに対して雪を投げつけて「返せるもんなら返してみろよ!」と笑う。逆にフィリップは、芸術に疎いドリスの教養のなさを「ヴィヴァルディも知らないのか」と笑う。ドリスはフィリップの障害を、フィリップはドリスの無教養を、それぞれネタにしあって生きていく。あらま素敵。

スラム街で育った貧困層のドリスはピアスをしてファンクミュージックで踊り、裕福な豪邸に住むフィリップは高級スーツをまといクラシック音楽を好む。年の差も住んでる世界もちがうふたりがジョークでわかりあえる。ユーモアの可能性を感じるよね。ガサツなドリスは常にジョークを絶やさない愉快な若者で、気難しいフィリップも自分の状況に愚痴ひとつ漏らさずユーモアに理解のある中年だった。「彼は私をひとりの人間として扱ってくれる」というフィリップの言葉は、ユーモアがあったからこそつながりあえた証明。けっきょくドリスは1万1000ユーロで売れる絵を描きはじめ、フィリップはアース・ウィンド&ファイアに心を浸らすことにもになる。

そういう相互作用がこの映画のすてきな部分でもあって。たとえばフィリップは自分の趣味でドリスをオペラや絵の展覧会に連れていくけど、ドリスは「なんだこれ、4時間もあるの? 馬鹿げてる」「こんな絵に3万ユーロ? 冗談だろ」と笑うしかない。でも彼はそう言いながらもフィリップの元ですこしずつ芸術の教養を身につけていくんだよね。フィリップの誕生日パーティで演奏されたクラシック音楽をドリスは「これ知ってる! 有名な曲だ」と大喜び。こんな音楽、興味もなにもなかったはずなのに。物語終盤で、フィリップの元を解雇されたのちに訪れた就職活動の面接会場では、壁にかけられたダリの絵を見て、面接官と盛り上がる。知性を鼻にかけない、あくまで自然体な、ドリスらしい切り口で。

主人公が身体障害者でありながら、いわゆる「泣かせる」演出なんていっさいないのに、心の琴線にふれる場面が多くある。ドリスって、ガサツだとかザツだとかってイメージが映画から単純に見受けられるけど、じつはフィリップよりも他人の心の動きに敏感で、気配りができるひと。

その場面もちゃんとあった。家政婦のイヴォンヌと庭師のアンドレの仲が不穏な空気になってること、フィリップの娘エリザが人間関係に悩んでいること、をドリスはしっかり見抜いちゃうんですね。そしてさらっとイヴォンヌとアンドレの仲を取り持ち、エリザと彼女の恋人に一喝いれちゃう。あくまでさらっと。おしつけがましくない、これもやっぱドリスらしいやりかたで。

そんなドリスだから、フィリップが半年間も文通をつづけているペンパルの存在を知ったときは、そのふたりの関係が進展するように積極的に動く。やや乱暴ではあるけれども、それをフィリップは戸惑いながらも笑って受け入れる。

このフィリップももちろんすばらしい。彼は、ドリスを思うがゆえ、この将来有望な若者をいつまでも自分の元に縛りつけておくことはできない、と判断する。それはとてもつらい決断だったはず。だって、表面上はドリスの解雇だ。でもほんとうにかわいそうなのはフィリップ。ドリスと心を通わし、自分の介護はこいつしかいない!って思ってたのに、その関係を断っちゃうの。つらいよね。つらい決断だった。

そしてドリスのいない日々に耐えながら暮らすフィリップを見かねた周囲がドリスを呼び戻したとき。あの夜の庭で、何事もなかったかのようにかつての笑顔でほほえむドリスを見たときのフィリップの顔。フッと、それはささやかながらにも、おおきなほころびの笑み。あのときのフィリップの笑みが、観終えたあとも印象的でしかたない。


貧困層や障害者の抱える葛藤や苦しみを、あえてこの映画では描いていない。だからこそ、ここまで痛快愉快な作品に仕上がったんだと思う。どこまでも突き抜ける、ハートフルな笑い。こういう関係、いいなと思う。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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