破壊神

2016/11/13

t f B! P L
破壊神。その名前をバンド界隈で聞いたことがあるのはちゃっかり2人目だったりする。

1人目は高校のとき組んでいたバンド仲間のイオリちゃん。彼女はですね、紅一点としてバンドに加入したのち、バンド内のすべての男と関係を持つんですね。それで内分裂が起きてバンドが解散するというまさに「破壊神」な女だったそうな。僕は関係を持ったことがないから知らんけど。「やめて、わたしのために争わないで!」とはよく言ったもので、というかほぼイオリちゃんのためにつくられた言葉のようであったそうな。僕は関係を持ったことがないから知らんけど。

さてさて僕が四半世紀の人生で出会った2人目の破壊神、それは樹里ちゃんという女の子だった。彼女はべつに性欲モンスターなわけではなかったから、イオリちゃんとはすこしテイストのちがう破壊神エピソードを書こうと思う。

樹里ちゃん、彼女は、なんの悪意も他意もなくひとのものを壊すタイプの破壊神だったんですね。

たとえば椅子。ニ○リで、僕はエンジニアの神田さんとスタジオに置く小ぶりな棚を見ていた。帯同していた樹里ちゃんはひまそうに店内をぶらぶら徘徊していた。僕と神田さんが「これ置けますかね?」「うーんちょっとおおきいかな」「でもこっちのだと色味が合いませんもんね」「そうだなー」と話していると、<ガターン!!!>とものが壊れる音がフロアに轟いた。見やると、樹里ちゃんが地面に倒れており、背もたれと分離された回転椅子が近くに転がっていた。「だいじょうぶ!?」と僕らが駆け寄り事情を聞くと、樹里ちゃんは起きあがりこう言った。

「背もたれを前にしてのしかかるように回転椅子でぐるぐる回っていたら、遠心力で背もたれが折れた」

え〜。実直に言ってそんなことある〜? ていうかそれ遠心力じゃなくて体重なんじゃ…。とはさすがに言えなかったけども、樹里ちゃんはきっちり椅子代を弁償していた。僕らは恥ずかしくて遠巻きに見ていたからじっさいの金額は知らない。

そして換気扇。バンドのドラマーって、よくスティック(ドラムを叩くバチみたいな細い木の棒)をクルクルと上に投げて、見事華麗にそれをキャッチして最後のジャーンで締める、みたいなことをやるんですね。もちろんみんながみんなそういうことをやるわけではないけれど、樹里ちゃんはそれの練習ということで、スティックをジャグリングのように両手でクルクル上に投げていた。

すると、勢いあまったスティックが天井の換気扇の穴にグッサリと刺さった。もちろんなかではプロペラが回っている。プロペラとスティックは内部で交錯している。プロペラは合成樹脂っぽい素材、かたやスティックは激しいドラムプレイに耐えうる強固な木材。とうぜんプロペラは折れる。ガガガガガガガガガガガガガガガガ、と換気扇をとめるまでプロペラとスティックのバトルは続いた。

そんな感じで悪気はないんだけどものを壊す破壊神・樹里ちゃんの破壊力は、いよいよ僕の私物にまでおよんだ。

僕がたいせつにしているピックケースがある。ピックってあれね、ギターを弾くときに使う三角形の爪みたいなやつね。僕はそれをとてもたいせつにしているのだけど、樹里ちゃんは目のまえに僕のピックケースがあったからというだけの理由でそれを手に取り、なかからジャラジャラと僕のピック(1枚108円)を手のひらに広げ、それをスタジオ内で手裏剣のように投げはじめた。「シュバババババ」という本人の効果音声つきという豪華仕様で、僕のピックたちはあっという間に霧散した。

「ごめん、れおくん。探したけど3枚くらい出てこなかった」

言わずと知れた結果だった。「アンプの裏に行ったと思ったんだけどなー」と口惜しそうに樹里ちゃんは言ったけど、そんな後悔より300円返せ。

また、カポタストという道具がある。ギター演奏時にキーを変えるために用いるもので、洗濯バサミがより強固になって巨大化したものだと考えてほしい。破壊神・樹里ちゃんは、またも目のまえに僕のカポがあったからというだけの理由で、その巨大頑丈な洗濯バサミを、まるで握力を鍛えるトレーニング器具のようにキュッポキュっぽとやりはじめた。

「ごめん、れおくん。カポ、折っちゃった」

あたりまえである。握力トレーニングのためにつくられたものじゃないのだから。でもそれ、僕が先輩にもらったたいせつなカポなんだけど、と言ったらさすがに樹里ちゃんは顔面蒼白になって、さきほど折った僕のカポを持って名古屋パルコの島村楽器(スタジオからいちばん近い楽器屋)に走り、似たような(おなじではない)カポを買ってきてくれた。

「ごめん、壊したからこれ、返す」

悪気がないからきちんと謝るのはこの子のいいといころだ。「うん。で、折ったほうはどこ?」と僕が訊くと、破壊神・樹里ちゃんは言った。

「え、あれはもう使えないから楽器屋のゴミ箱に捨ててきちゃった…」

使えなくてもそれが大事なんだろうがよ!!! と心のなかでツッコんだのは言うまでもない。救いようのない悪気のなさだ。

それから1ヶ月くらい、短かったけど樹里ちゃんと僕は13曲のデモテープと6曲の音源を録音した。

そんな破壊神・樹里ちゃんとのバンドのレコーディングも最終日を迎えることになった。最後のセッション、レコーディング。スタジオの予約終了時刻を定刻どおりに出ると、樹里ちゃんは「れおくん、わすれものっ」といってカポを投げ渡してきた。「わたしが壊して買いなおしたカポ、大事にしろよっ」と付け加えて、樹里ちゃんは鼻唄うたいながらスネアドラム片手に駐車場に消えた。あっという間だったな、1ヶ月のバンド活動。

その場は暗かったから気づかなかったのだけど、家に帰ってカポを見てみると、「樹里」と彫刻されていることに気づいた。たぶん、マイナスドライバーかなにかで無理やり彫ったんだろうけど、破壊神・樹里ちゃんに買ってもらったカポに思い出といっしょに文字どおり刻み込まれた「樹里」の2文字。



ダイイングメッセージかよ、と思った。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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