朝の準急に乗ると座れる。
急行に乗ればふた駅で着くのに、「座る」というただそれだけのために早くに家を出る根性だけは見直してほしい。準急に乗れば座れるし、ほかの乗客の会話とかも耳に入ってきやすいし、座れたりもするし、あとやっぱ座れることがおおきい。
こないだ準急に乗っていたら、途中の駅からめずらしく混みはじめて、出入口付近はもちろん、座席と座席とのあいだの通路側までひとが立ち入ってきた。座って対面する窓の向こうなんかを朝陽に目を細めながらながめていた僕としては突如目のまえにひとの壁ができたかたちだ。
眼前にスーツすがたの若い男性が立った。若くて、顔立ちとしては男前でもないし不細工でもない、いたってフツウな感じの20代半ばくらいの男だった。
それだけならわざわざブログにメモするまでもない。なぜそんなはなしを書きはじめたかというと、その男性がものすごく興味深い文庫本を読んでいたからで。
タイトルをして『すべてはモテるためである』という。表紙には水色の下着すがたでこちらを見返るショートヘアの女のひと(童顔で目がおおきいけど大人っぽい謎な雰囲気)が控えるようすもなく笑顔でどどんと描かれていた。
コレを書店カバーもなにもなしに電車のなかで堂々としたたたずまいで読む、20代半ばの若いスーツすがたの男性。思わず二度見しつつも「まぁ年ごろだし…」とか「上司に勧められたのかもしれないし…」とか目的不明のフォローを入れながら二度見の二度目であることに気づいた。
大量の付箋が貼ってある。
僕はおもしろいと思った本には付箋を貼るタイプの人間で、貼りすぎて文庫本よりも付箋代のほうが高くつくレベルなのだけど、その僕をして「大量の付箋」と称することのできるだけの数の付箋が、20代半ばのスーツすがたの男性の読む『すべてはモテるためである』には貼ってあった。
ガチやん。
本の内容は存じあげないけども、その年でそのタイトルの本をその量の付箋を貼りながら読むって、それはもうガチでモテたいって思ってるやん。恥じらいも羞恥心もすべてを投げうったうえでモテにかかってるやん。表紙で水色の下着すがたの女性が心なしか頼もしげに笑っているようにさえ見える。
男性の本気度を確認したところで目的の駅に着いたので、その本はスっとカバン(ビジネスマンが持つような立派なブリーフケース)にしまわれ、男性と僕とその他乗客たちがいっせいに電車を降りる。思わずあとをつけたくなる衝動を懸命におさえてPiTaPaで改札を抜けた。駅のバスロータリーにはさわやかな青空が広がっていた。
その後その男性については知らないし、彼がモテたかどうかの結果報告なんて知る由もない。ただ、あの日の駅のロータリーの青空と、男性の読んでいた本の表紙の女のひとの下着、心なしかおなじような水色だった。がんばれ、モテたい20代半ばのスーツすがたの男性。健闘を祈る。
れおくんアドレス変えた? ケータイ繋がらないんだけど??
返信削除あー悪りぃ変えた。まさか連絡くるとは思ってなかったわゴメンよー。あとで送っとくー。
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