愛と困憊のGW

2017/05/07

t f B! P L
「ごめん…、一ヶ月後にある東京のハコでのライブ、勝手に申し込んじゃった」

すべてはそこからはじまった。僕がギターをつとめるバンドRadio Junxoneのボーカル、またの名を破壊神、上原樹里が、だれの承諾も得ずに東京でのライブの予定を決めてきた。

「いやー、むかし世話んなった先輩が『バンド1組空いてる』って言うからさあ」
「あっ、でも、いいひとたちだよ!? 信号ちゃんと守るし、ゴミはきちんと分別して出すから!」
「ほらっ、ゴールデンウィークだし、なんとか予定あうって!」
「みんなひまでしょ?? ダイジョブだって〜」

いろいろと言い返したい御託をならべて破壊神・樹里は必死に僕らを説得した。まぁ、申し込んじゃったもんはしかたないし、いつまでも遊びのバンドってのも緊張感ないからいっか。悪いひとたちじゃなさそうだし。信号、守るそうだし。

とまぁ、なんとか言いくるめられたていで一ヶ月後のライブ(一時間)の決定がくだった。しかしそうなると課題が山積みである。

まずRadio Junxoneは持ち歌が7曲しかない。一時間のライブをこなすにはソングライターの僕がめちゃくちゃがんばるしかない。そしてそれをメンバーで完成に向けてさらにがんばるしかない。スタジオ音源が5曲。デモ2曲。もうあと4〜5曲くらいを一ヶ月でかたちにする。それは中学生が甲子園をめざすくらいの悪あがきに思えた。無理。

破壊神・樹里は言う。「月イチで集まってたけど、しばらく毎週集まろう」。

おまえが言ったら元も子もないだろう!とメンバー全員が心のなかでツッコミを入れたのは言うまでもない。

課題その二。ボーカルの樹里は最近ドラム・ボーカルからギター・ボーカルにコンバートされたばかりという内情がある。

破壊神・樹里は言う。「大丈夫! ドラムはもうヘルプ頼んであるし、ギターもちゃんと練習するからまかしといて!」

不安なような、頼りがいがあるような。すくなくともドラムのひとの実績は聞いたぶんには大丈夫そうだった。後日スタジオに集まって確認したら、バッチリどころかなんか下手の集いに巻き込んですみませんみたいな雰囲気にすらなった。演奏も樹里のギターよりきちんとコピーしてくれてた。

しかし課題その三。ベースの純くんが最近カノジョと修羅場らしい。

こればかりはこらえきれ、純くん。歯、食いしばれ。

最大の課題。我々、名古屋を中心に居住している。

破壊神・樹里に問う。

「で、東京のどこなん?」
「下北沢のサイゼリヤの横だって」

おお…。サイゼリヤの横ってのが引っかかるがなんだかオシャレである。

「ハコのキャパは何人?」
「250ちょいって聞いたかな」

ハコってのはライブハウス、キャパは収容人数のこと。なかなかデカい。

「ノルマとかはないんだよね?」
「うん! もちろん! 名古屋で東京のチケットなんてサバけないしね!」

そういうところは話をつけてくれているのは頼もしい。ひと安心。

「で、移動手段の手配は済んどんの?」
「………」
「………」
「………てへ♡」

てへ♡じゃないだろう! 肝心なところのツメがあまい。

「確認だけどライブハウスのブッキング料とかは俺らが払うんだよね?」
「それが筋ってもんでしょう!」

おまえが威張ることじゃない。

メンバー会議を3回にわたりかさねた結果、「出演直前までライブハウスのドリンクの売り場担当をRadio Junxoneが受け持つ」「対バン(共演)するバンドの物販の呼び込みを手伝う」等の発案ですこしでもゼニを稼ぐという小賢しい方向性で一致団結した。ライブなんてタダでさえ赤字なんだよ。

「で、曲数どうやって稼ぐつもり?」
「ボーカルはわたしだから、MCでれおくんと漫才とかやってたらたぶん5分くらいは……」
「その際はボケ担当で頼むわ。照明あびてまで樹里ちゃんにツッコむのはしんどい」
「オープニングSEを10分くらいながすとか!?」
「6分目くらいから続々とひとが帰るだろうよ」
「あっ! 初期のドアーズみたいに間奏を15分とかに引き延ばせばきっと……」
「もういい。俺がんばって曲かくわ」
「もう〜、れおくんったら〜♡」

ちっとも嬉しくないハートマークをもらって、機材車のバンの手配は僕が済ました。運転手への申し込みの土下座は樹里がソツなくこなし、過密スケジュールのなかでスタジオにこもった成果あってかセットリスト12曲が用意できた。

しかし当日はゴールデンウィーク。それも上り線だから渋滞必至。事故でも起ころうものならもうたいへん。

破壊神・樹里は言う。「名古屋を夜に出たら朝には東京に着いてると思う!」。

合っているのだけど、どこか間違った計算なのは、運転しない樹里が言うからだろう。「運転手のセリフを取らないでね」とベースの純くんがやさしく諭す。純くん、カノジョとはどうなったんだろう。

そんなわけで連休も折り返した日の夜、決戦は金曜日だとDREAMS COME TRUEも言っていた。名古屋には精鋭部隊が集まった。

メンバー紹介をします!
ボーカル、悪意なくいろんなものを壊す樹里!
ギター、治療中の前歯の仮詰めが取れたばかりの礼央!
ベース、カノジョと別れ話を切り出されそうな雰囲気の純!
ドラムス、こんな我々に付き合ってくれる大人なサポート山岡さん!
エンジニア、付き合いの長さに免じて同行してくれる岡さん!

どういうわけか、運転できない僕と樹里が山岡さんの機材車に、そしていまにもフラれそうな純くんとエンジニアの岡さんがべつの車に乗るかたちとなった。どういうわけだ、どういうわけなんだ。神よ。

山岡さんに「眠たくなったら僕と樹里ちゃんがなにか壊して物音たてるから言ってね」と言ったら「機材車でそんなことされたら意識飛ぶからやめてね」と言われた。助手席、オー・イエス。

案の定、高速道路はものすごく混んでいた。途中で仮眠をとりながらも、山岡さんは寝てしまわないようにケータイでべつの車の純くんや岡さんとしゃべりながら運転していた。役に立たないふたりですんません。iPhone用の充電器しかない機材車を夜通し運転した山岡さんのAndroidスマホは、東京に着くころにはバッテリーが3%になっていてウケる。ウケない。

僕はぐっすり寝ていたので詳細は知らないが、夜に名古屋を出発した我々が東京に着いたのは朝の9時半だった。詳細は知らない。お疲れさましか言えない。

べつの車に乗っていた岡さんは言った。「朝ごはん食べよう。腹ペコだ。山岡くん、この近くになにかお店あるかい?」

山岡さんは3%しかバッテリーを残さないケータイを操作して言った。「丸亀製麺がある」。ダメだこのひと相当つかれてる。

駐車場との兼ね合いで我々が向かったのは下北沢まで来て丸亀製麺。岡さんが「無事に着いたことだし、ここは俺が出すよ」と年長者っぽいことを言い、「いいんですか?」と言いながらもだれひとり遠慮することなく岡さんに会計をあずける我々。「盛大に頼めよ」と岡さんは言うが、いくら低価格で美味しいうどんを提供する丸亀製麺とはいえ、僕らは遅ればせながらの遠慮をこめてイカ天とかおにぎりとかをオプションでつける。破壊神・樹里だけは元気にエビ天を二個もつけていて、早々と岡さんの財布をつぶしにかかっていた。

食べたらもうお昼まえ。ライブハウスに顔だして早めにリハーサルをしておこう。…と、めずらしくいいところを見せようとしたら、どうやらリハーサルにかかっていた対バン相手が機材トラブルで手こずっているよう。しかたなく僕らは楽屋に通してもらい、あいさつや手順の確認といったことを真面目に済ます。いつリハーサルの順番が回ってくるかもわからないので、楽器だけ棚の下に立てかけて、ひまタイムに僕らは入った。

そしてこの日はナゴヤドームで巨人×中日の第二戦がデイゲームで行われていた。ジャイアンツ狂の僕とドラゴンズ狂の純くんはスマホでラジオを立ち上げてやんや言い合う。酒を飲みながら野球中継みてあーだこーだ言う大人にはなりたくなかったけど、お酒飲んでないからゆるしてほしい。

2-1のリードで迎えた4回裏、ジャイアンツは追加点のチャンス。しかしここで回ってきた、リハーサルの順番。「いまいいところだから」と言って僕と純くんはラジオをゆずらない。業を煮やした破壊神・樹里は棚の下に立てかけてあった僕のギターと純くんのベースを持って「さぁさぁ、もう行くよ!」と立ち上がった。そのときだった。

ガンッ!!

なにかをぶつけたような鈍い音がして、楽屋には一瞬の沈黙が降りた。僕はその瞬間を見ていた。樹里が僕のギターを棚にぶつけたその瞬間を。

破壊神・樹里は真っ先に心配した。「どうしよう…棚に穴あいちゃった…」

とうぜん僕はものすごく心配した。「俺のギター、無事だよね?」

結果から言おう。僕のギターのボディの先端部に付いている、ストラップを通すピンが、破壊神によって破壊された。ライブで立って演奏するにはストラップを通さなくちゃいけない。しかしそのストラップを通すピンをぶつけてグラグラな状態だ。

正直、卒倒しそうになった。

純くんと山岡さんは気まずそうに口をつぐむ。破壊神・樹里は自分の所業への罪悪感にかられ、すぐに事務室に走って椅子を持ってきてくれた。「れおくん、これに座ったらライブできるかも!」

ここまでの器物損壊を披露しておいてこの言い分である。それでも憎めないのは樹里のキャラクター性ゆえか。とりあえず持ってきてくれた椅子に座る。弾ける。ギターが。なんの不自由もなく。

「いやそれもおかしいだろう!」僕は声を大にして言い放った。純くんと山岡さんがなにも言えない以上、僕が言わなくてだれが言うんだ。

山岡さんは「まぁたしかに、ドラム以外のメンバーが座ってるバンドはめずらしいけど…」とステージメイクに不安を呈し、純くんは「てかこのギター音出せるの?」ともっともな心配をしめした。

「どーすんのこれ?」
「まぁ周り見ずに勢いよく持ち上げた樹里ちゃんも悪いけど」
「野球から離れなかったれおくんと純くんも悪いっちゃ悪いような」
「てかこのギターいくらで買ったの?」
「え、高校生のときに20万くらいで買ったけど」
「へぇー、高校生にしちゃがんばったね!」
「いやぁ、まぁ分割で24回払いですよ」
「直すのにどんくらい値段するんかなぁ」
「そもそも直るもんなのかこれ」
「二人で半分ずつ出し合えば折半でよくない?」
「お、両成敗でいいじゃない?」
「わたし、そうなったら今月はもうひじきしか食べない」
「それこそ24ヶ月ひじきしか食べなかったらお金貯まるかもな(笑)」
「笑いごとじゃないんだよ」
「ごめん」
「にしても、どうしたものかね、これは」
「いやー」
「いやー」
「うーん」
「いやー」

ややあった結果、ひとまず一旦、リハーサルは樹里の持ってきた椅子に座って実行することにした。音は出た。音は出たけど、これじゃない感がすごい。

リハーサルが終わった。開演まで残り3時間半。Radio Junxoneの出番までは4時間強。急遽テーブルを囲んだメンバー会議の議題は「どうやって立ったまま壊れたギターを弾くか」だった。

いちおう、サブのギターは用意してある。でもあくまでサブはサブ。しかも借りもの。ぶっ通しで使うわけにはいかない。ほかの出演者のギターも借りられるけど、バンド全体のサウンドに影響するため、これは最後の手段にしたい。てか人様のギターをステージで使う勇気ない。

そんなわけで僕と樹里は山岡さんの運転で御茶ノ水へと向かい、このギターを超速で修理してくれるリペアショップをめざした。下北沢から御茶ノ水までけっこうあるけど、「楽器といえばやっぱ御茶ノ水でしょ♪」という加害者・樹里のノリノリの意見で御茶ノ水に決まった。純くんはなんかカノジョから電話かかってきてたいへんそうだったから置いてきた。「東京って…。音楽と私と、どっちが大事なの?」と問われたらしい。がんばれ、純。

そんなこんなで我々はリペアショップ一件目。これまでのいきさつを話し、数時間後にライブで使いたいという旨をリペアマンに告げると「これ完全にネジがゆがんじゃってるから、打ち直すしかないよ」と言われた。さらにリペアマンは「しかもこのギター、すでに一回打ち直してるから、三ヶ所目の穴をあけることになるんだけど、位置的にむずかしいしかなりリスキーだ」と続け「どこのリペアショップ行ってもおなじこと言われるね」とトドメを刺した。

一件目にして絶望の淵に追いやられた、純くんを除くRadio Junxone一同。しかし破壊神・樹里はポジティブに発想を変えた。「れおくん、もうこの際だからあたらしいギター買おう! いまのとおなじフェンダーのジャズマスター、こんだけ楽器屋があれば絶対に見つかるよ!」

「おう!」となぜか僕は答えた。いま思えば楽器を新調するなんてどうかしてる。でも混乱した僕と山岡さんは「それだ!」「樹里ちゃん天才だ!」と同調し、みんなで財布を開いた。

れお「俺17,000円あるけど、いまいくら持ってる?」
やまおか「俺5万円」
じゅり「わたし2,500円」
れお「クレジットカード持ってるひといる?」
やまおか「あるけど、今月もう利用金額の上限かかりそうだから…」
じゅり「わたしTポイントカードなら持ってるよ」
れお「ローン組んだらいけるかな…」
やまおか「フェンダーのジャズマスターってJAPANモデルでいくらくらい?」
じゅり「10万円くらいで買えますよ」
れお「でもどうせ買うなら妥協したくないし、せっかくだしUSA製がいい。アメリカン・プロフェッショナル・モデル」
じゅり「とりあえずテキトーにお店はいって、試奏だけしてみる?」
やまおか「でも買う前提だし、時間も残り少ないな」
れお「帰ってセッティングする時間もふくめると余裕ないっすね」
じゅり「あ、わたしイシバシ楽器のポイントカードあった。買うならイシバシ楽器にしよ」

ニッチもサッチもいかない3人できたのが悪運を呼んでか、一向にギターを買う方向に進まない。するとさっきのリペアショップのリペアマンが走ってきて僕に言った。

「君のギターだよね?」
「はい。いまあたらしく買おうか相談してたんです」
「さっきのギターと同等のスペックを求めると20万は覚悟しないといけないよ」
「にじゅ…まぁ、そうですよね…」
「それより、原始的なやりかただけど、提案があるんだ」
「!」
「ストラップを延ばして、片方を壊れていないボディのお尻の部分に、もう片方をヘッドに巻きつける」
「なるほど。アコースティックギターのやりかたですね」
「エレキギターでやるひとはまずいないし、アコギでも最近は減少傾向にある付けかただけど、コストがかからないのはそれしかないと思う」
「椅子に座ってライブやるのとどっちがオススメっすか?」
「いや…それは君にまかせるけど…」

立ち聞きしていた山岡さんが「れおくん、俺もそれがいいと思う」と背中を押してくれたおかげもあって、僕はストラップをヘッドにつける紐だけリペアショップで買って、いそいで車に乗った。

樹里ちゃんが「よかったね、楽器買わずに済んで」と言い、山岡さんが「それ、部外者である俺のセリフね」と困惑する。とりあえずスタジオにもどり、さっき言われた方法でギターを肩にかけてみる。

立ったまま弾ける!

右側に重心がかかるとガタンと落ちそうになるのは注意しなくちゃいけないけど、これならなんとか本番ができそう。グッジョブ、リペアマンのお兄さん!

それからは約束どおりドリンク売り場をみんなで担当したり、チケットをもぎったり、物販の準備を手伝ったり、小遣い稼ぎに余念がない我々。さぁ、いざ、本番。

樹里のギターからはじまったRadio Junxoneのライブは、280人の観客を目のまえにしても、いい演奏ができたという自負がある。慣れない持ちかたのギターで緊張もあったけど、12曲目を終えたとき、たぶんこの世のだれより達成感がある空気につつまれた。

打ち上げにも参加せずに直帰をゆるしてくれたバクスタとヘルニアモンキーのみなさん、対バンありがとうございました。こんど東京に来た際には観光案内お願いします。

コール&レスポンスに応えてくれたオーディエンスのみなさん、あったかい場所で嬉しかったです。また遊びにきます。

慣れない環境でレコーディンしてくれた岡さん、エンジニアおつかれさまでした。ミックスダウンまだ残ってるけど、信頼してます。

突然の頼みでも手伝ってくれた山岡さん、隙のない完璧なドラミングでした。運転からなにからサポートしてくださって助かりました。

依然としてカノジョと修羅場が続いている純くん、グルーヴ感が心なしか倍増してました。名古屋に帰って優しくしてあげてください。

なにより、ドラムから離れて短期間でギターを練習して急なライブのブッキングをして僕のギター壊したあげくライブ中にバンド名を間違えた樹里ちゃん、あんたの歌はホンモノだよ、筆舌に尽くしがたい至極の歌声でした。

エンジニアの岡さんに音源のミキシングを残して、Radio Junxoneの東京初ライブは無事も無事に幕を閉じた。帰りの高速まで爆睡してすんません山岡さん。名古屋に着いたときはバッテリー8%だったAndroidスマホに乾杯。

このさきこのバンドがどうなるかは、あいかわらず未知数だけど、すくなくとも2017年5月6日時点でいいバンドです。なんとか続けばいいね。あと樹里ちゃん、ギター代半分ちゃんと弁償してね。がんばってくれた僕のジャズマスターに感謝。

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