ネタバレ全開で挑む映画「万引き家族」の感想

2018/06/18

movies 感想

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どのワンショットをくり抜いたところで、所詮とでも言いたげに映るすべてが自然的で耽美。すべてが画になるというのは、キャストの絢爛さゆえか、物語のリアリティゆえか、あるいはその両方か。虐待、貧困、独居、ほかにも教育や雇い止めなどをひっくるめて家族政策の理念にたいして裏腹を突っ走る人間たちのすがたを結ぶ、絆とかいう底知れない愛のかたち。いま、いちばん世界に見せたくない日本だと思う。新聞の見出しになるニュースを見たときの、腑に落ちない解せない違和感と、身につまされるような情景と言葉が2時間つづく。

安藤サクラの演技で背筋が凍る。 「正しさってなに、それっておいしいの?」を地でいく演技や台詞の数々に、いい子ぶった自分の価値観がいつからか白旗を降って、ものごとにたいする善し悪しの観念が降伏する。ひとが、こんなふうに泣くところをはじめて目のあたりにした。溢れ出る涙を無造作に広げた指で拭う仕草、にらみつける目つきからは、信代の悲しみや怒りがひしひしと伝わってくる。音楽も台詞もない、一切の膳立てを排して彼女を映すその光景に、自然と涙目になることに気づく。

ジャン=リュック・ゴダールは、「たとえ劇映画でも、出演している俳優の生きている姿を切り取ったという点では、ドキュメンタリーと同様である」という主旨の発言をしている。カンヌ映画祭でケイト・ブランシェットが絶賛したあの場面もまた、安藤サクラのドキュメンタリーなのか。

散らかりきったこの家族の家にはモノはたくさん転がっていて置き場も踏み場もないのに、この部屋には不要なものばかりで、本当に必要なものはなにもない。

とくに印象的なのは、「家族」の希望の象徴である「子ども」の対照的な末路。

パチンコ屋の駐車場で放置され、車のなかで死にそうになっていた祥太。家庭で暴力を振るう夫に追い詰められた母親から、育児放棄と虐待を受けたりん。二人は、この「万引き家族」に拾われたところでなにも解決していない。警察の取り調べで治が警官を呆れさせた「ほかになにも教えてやれることがない」の言葉どおり、祥太が身につけたのは万引きのスキルがせいぜい。

11歳の祥太が読んでいたレオ・レオニの「スイミー」は、小学校二年生で習うこくごの教材だよ。五年生か六年生であるべき祥太は、まだ二年生レベルの読み解きしかできないということになっている。もともと祥太はあたまがいい。駄菓子屋の店主に万引きを一度注意されたのをきっかけに、子どもながらに世のなかの善悪をきちんと理解できる。読み書きも、治から教わったわけではなく、自分から取り組んでいるんだろう。そんな翔太でも、正規の教育を受けないと同い年の子どもの水準に追いつくことさえできないんだ。

信江との面会で、本当の両親を探す手がかりとして、「松戸のパチンコ屋に停まっていた習志野ナンバーの赤のヴィッツ」と告げられた翔太。映画には描かれていないけど、賢い祥太はきっとその道すじをたどるんだろうな。

そうやって児童保護施設に入居して普通の子どもの生活を手に入れた祥太にたいして、りんの日常は惨憺だった。りんは柴田家で髪を切って、赤い服を燃やしてもらった。その後は青い服しか着てなかったけど、母親のもとにもどったらまた赤い服を着ている。団地の廊下でビー玉をかぞえて遊ぶものの、1から10までしかかぞえかたを知らない。保育園や幼稚園に通っている様子もなく、寂しそうに廊下から外を見つめる表情でシーンが終わる。

初江の死後に解体された「万引き家族」の一人々々にその後の生活が続いていくなかで、りんの実情がいちばん酷い。本来の家族のもとへ帰れて、最大の幸せを享受する立場にいるりんが、もっともつらい生活に陥っている。あたたかに生活を取り戻すヒューマンドラマではなく、是枝監督の最後の課題を突きつけられたようで。家族ってなんなのか、血縁ってなんなのか、夏休みを眼前におおきな宿題をもらった気分。

目を凝らして街を歩けば、映画に出てくるようなひとたちはそこらじゅうにいるんだろうな。この映画をまえにすると泣くことさえ安易軽率で、涙のひと粒も簡単にはゆるしてくれない丹念で稠密な生々しさにからだじゅうが酸味で押しつぶされそうになる。

登場人物が、みんな一貫して人間をあきらめていない。ケイト・ブランシェットの影響で安藤サクラの母性に注目しがちだけど、この映画の主題はリリー・フランキーの父性への憧れと、それに届かなかったおおいなる挫折。副題は言わば「そして、父になれない」みたいなもんだ。松岡茉優さん演じる亜紀もよかった。妹にたいする深いコンプレックスや家庭での所在なさから、風俗店で妹の名前「さやか」を名乗って働いたりしても、幼いころ実妹に向けられなかったその優しさでりんと戯れる鏡のまえのシーンでは顔がほころんだ。

擬似と虚偽でつくろった一時的な家族ごっこだったかもしれないけど、縁側で花火の音を聴いたり、海水浴場に日帰り小旅行をした6人のひと夏は、いつまでもみていたかった。つかの間の幸福であるにせよ、5人を見守る初江が噛みしめるようになにかをつぶやくシーンで、樹木希林のかちえた表情は幸せそのものだった。

この映画にたいして万引き行為の害悪について議論を闊歩させるのはあまりにも間抜けたナンセンスで、そんな外野は無視してていいんだろう。心がダメなときに観るとポップコーンぼろぼろこぼしながら嗚咽してとなりのひとに不審がられるので注意です。食事を済ませて、ハンカチの準備をしてから劇場に向かいましょう。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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