今更だが映画『ルームロンダリング』について話そうと思う

2019/01/21

movies 感想

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それも、ネタバレを込みで。





物語の前半は池田エライザ演じる八雲御子の、「ネクラ」で引っ込み思案な側面がとにかくフィーチャーされる。

「死んだ人間の霊が見える」

幼いころに交通事故で父親を亡くし、母親が失踪してからは祖母のもとで育てられた御子。その祖母も亡くなってから始まるストーリーのなかで、御子は、この能力のせいで母親に捨てられたと思っていることが次第にわかってくる。

自分は世のなかから受け入れられない、親からも見放された無価値な存在であると思い込んでしまった御子の、孤立無援の生活。強いて言えば伯父の雷土悟郎が唯一生活に手を差し出す介在者だったが、一方的に引っ越し先を決めてバイトの斡旋をするばかり。

そのバイト「ルームロンダリング 」をとおして御子が出会っていくのは、将来を悲観して風呂場で手首を切ったパンクロッカー・公比古や、何者かに背後から刺されて殺されたコスプレ趣味のOL悠希。個性がきちんと立っていて、幽霊とはいえ登場人物の一環として憎めない魅力がある。

それどころか、むしろ彼らは御子よりも人間味や生活臭がする、生きた存在に近かった。

自分の姿が見えて会話までできる御子を頼りにし、自らの心残りや悔しさを口にする公比古や悠希の姿は、存命中の我々と刺し違えたら勝るのではと思うくらい生き生きとしている。隣人との交流はご法度とされている御子の生活で、彼らとの交流を通して、「人間が生きている意味や価値」「考えてばかりで行動に移さなかったことで残る口惜しさ」そういったことを投げかける。

しかし、その生い立ちから周囲からの声に耳を塞いでしまっている御子は、なかなかその後悔を現実味として感じられず、ふたたび周囲と関わるための勇気が出ない。定食屋でもメニューを指差して注文したり、お釣りも受け取らずに買いものを済ませたり、なにより、手放さなかったヘッドフォンがその象徴だろう。





そんな御子が、物語の後半で前を向くことを決めたとき、御子の生い立ちを知る我々は、それゆえに痛快に爽快な気分になる。

あれほど毛嫌いしていた自分の能力が、幽霊たちを助けられること。自分が他者から感謝される存在であることに気づいた御子とともに、ストーリーもギアをあげて疾走を始める感覚は、観ていてとても気持ちのいいものだった。御子が彼女の使命と目的から向き合うとき、そして自ら踏み出し行動を起こす様子は、もはや快感でさえある。

亜樹人を立たせて犯人と対峙した場面、創作表現の定石なら「ヒーローとなる人物が助けに来る」か「ヒロインが勇気をだして立ち向かう」かのどちらかに展開が分かれる。しかし、御子の味方にはヒーローどころか、生きた人間には触れられない気づかれない幽霊である公比古と悠希しかいない。そしてヒロインである御子は、あれほど勇気をふりしぼったにも関わらず、この絶体絶命の局面においてその積極性を公開する始末。

だからこそ、悟郎たちの存在とも向き合った御子に、我々は感動するのだろう。

虹川の存在を守りつつ、自分の内側にあった人間関係に向き直った御子。ラストシーンは、御子と虹川がおなじ部屋で暮らし始める雰囲気をにおわせて終わるが、そのとき、アヒルのランプが光っている。

心霊レーダーにもなるこのアヒルの大型ランプを持ち歩く池田エライザの姿で、作品の世界観を一発で表すビジュアルとなっているだけではなく、祖母の葬式にも参列したこれは、御子にとっての子ども時代の幸せの象徴だ。

それは、また幽霊を感知してなにかが起きるのではないか、と捉えることができるし、御子の幸せがようやく灯った、と捉えても不正解ではないだろう。想像を掻き立てる演出だけど、じつに気持ちのいい最後だった。





心霊やトラウマなど、深刻になりつつあるテーマをコメディタッチで描くことを終始徹底して心がけるなか、自殺したパンクロッカーの心残りとなっていたデモテープに対する苦い結末や、コスプレOLが殺された理由の残酷な現実。さらには、御子の失踪した母親に関する真実が明らかにされるシーンなど、幽霊が見えるという設定に頼って安易なファンタジーで終わらせない志の高さがうかがえる。

御子がスケッチブックに残した、過去の物件で目のあたりにした孤独な死のありかたに公比古が言葉を失うシーンは、その骨頂ではないだろうか。

御子はもう慣れてしまっている。しかし、彼女がこれまで体験してきた残酷な現実を垣間見る我々の背筋が凍るとき、片桐健滋監督の手中に取られたと思った。

たしかに幽霊たちは脇役であるし、無邪気なキャラクターで笑わせてくれるが、そんな彼らの背景と内面を丁寧かつ稠密に描き切るとき、その葛藤や苦しみが、ファンタジーを超えて伝わってくる。





夢を行動に移すのは、簡単な勇気じゃできない。それでも、ヘッドフォンをしていた御子が幽霊たちから学んだことや、通じあった心は紛れのない勇気だろう。そしてその先で、偽造パスポートを不法入国者に売ったり、地上げで立ち退きを拒む家に子どもを使って後ろ暗いことをさせてた悟郎の目的が、御子を美大に進学させる学費を用意するためだったとわかったとき、将来はそんなに冷たいわけでもないよ、と消極的な背中を押してくれるストーリーでもある。

内向的な役を演じきった池田エライザだけではない。胡散らしい役柄にオダギリジョーは適材だな、と思う反面で、御子にだけ過保護に優しい悟郎は、オダギリジョーにしか演じられないな、とも思う。短い出演ながらも感情と表情だけで印象を植え付けたつみきみほの母の顔や、渋川清彦と光宗薫が見事に見せる、笑いのなかにある自身の悲しみ。個人的にはなにより、ほとんどセリフがないなかで「ミニカーを見つけてしゃがむ」というただこれだけの演技で、その背景と感情を表現した柄本時生の演技は圧巻だった。





隅々まで無駄を配さない、すべてのストーリーを純度よく語りつくした『ルームロンダリング』、そこに見える内向と希望は、決してファンタジーじゃないリアリティである。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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