あいみょんの文芸性について、そろそろ話してもいいだろうか

2019/02/01

music

t f B! P L


2018年は、あいみょんにとって充実した一年になっていたに違いない。

4月25日「満月の夜なら」、8月8日「マリーゴールド」、11月14日「今夜このまま」と、3枚のシングルをペースを落とすことなくリリースし、2月の『関ジャム』を皮切りに『ミュージックステーション』『SONGS』『Love music』『スッキリ』極めつけに『紅白歌合戦』など、地上波のテレビ番組で数多くのパフォーマンスを披露した。

満を持して2nd Album『瞬間的シックスセンス』を控えているあいみょんだが、彼女の音楽をポップアイコンとして刮目する音楽業界人や女子中高生のなかで、楽曲の音楽性や歌詞の文芸性については散々展開されてきた。あえて黙ってきたが、僕もそろそろ口を開こうかと思う。なんといっても紅白に出たんだし。

「今夜このまま」で言葉にしないまま表現したアレ


現状最新曲である「今夜このまま」は、ドラマ『獣になれない私たち』のEDとして、あいみょんを躍進させる適材となった。

構成はAメロ(-A'メロ)- Bメロ - サビから成るコーラスを繰り返したあと、Cメロを挟み、半音転調の大サビで締めるという、非常にオーソドックスなものである。彼女の楽曲にはあまり奇を衒った展開を含まないことが多い。定石であるカノン進行を駆使した堅実なコード進行が物語るように、日本人に親しみやすいJ-POP然とした曲調から紡がれる楽曲のストーリーが、あいみょんのスタイルだ。

隠喩やレトリックを使うことで無駄な言葉を排した歌詞も、メロディに自然に寄り添うかたちになっている。その点では、デビューシングル「生きていたんだよな」での語りは少しトリッキーだ。しかし、語りから稠密に鞣されたBメロへの移行や、そのBメロを短くしてそのままサビになだれ込む手際の良さには、丁寧に歌を展開させる彼女の作家性が表れている。

いたずらに予想を裏切ることなく安定させた楽曲展開に、言葉とメロディが等身大に寄り添っている歌モノは、ポップスとして馴染みやすい。そこに独自として折り込まれているのが、最小限の言葉で豊かな情景と感情を浮き彫りにする、巧みな作詞スキルだろう。

苦いようで甘いようなこの泡に
くぐらせる想いが弾ける
体は言う事を聞かない
「いかないで」って走ってゆければいいのに
広いようで狭いようなこの場所は
言いたい事も喉に詰まる
体が帰りたいと嘆く
「いかないで」って叫んでくれる人がいればなぁ
(今夜このまま)

とりあえずアレください
(今夜このまま)

「ビール」という単語を一切使うことなく、居酒屋で飲みながら「帰りたくない」と駄々をこねる様子を表現している。凡凡たる作家なら、「ビール」というワードを入れたあと、設定した状況をもとにストーリーを展開していく。ビールありき、の物語をつくってしまう。

しかし、あいみょんのストーリーにおいて、ビールはあくまでも脇役である。ストーリーを事前につくり、その状況を解決できるアレをください、と述べているのだ。泡という一文字でビールを連想させるそのストーリーは、絶品である。

サウンド面では、アコースティックギターのフォーキーな弾き語り中心のアレンジながら、随所にR&Bやダンスミュージックを想起させるビートの太さがある。ロックの様式美が好まれる傾向にある近年のJ-POPシーンにおいて、あいみょんのアンサンブルはむしろR&Bを消化した90年代のそれである。

サウンドの重心を低く持ってくることによって、打ち込みで芯のある低めのキックやスネアが、楽曲全体にぐっと迫力を出している。

過去の曲に目を向けてみても、楽曲・アレンジ共にR&B的なクールさを強調している「愛を伝えたいだとか」や、打ち込みのドラムやパーカッシブなサウンドが隈なくはりめぐらされた「満月の夜なら」もサウンドの重心の低さが目立つ。アレンジャーとして一貫して関わってきている田中ユウスケ(agehasprings)の采配によるところもあるのかもしれないが、小沢健二やフリッパーズギターに憧れてきたというあいみょん本人の資質も大きいはずだ。

ものの3行が艶かしい「満月の夜なら」


君のアイスクリームが溶けた
口の中でほんのりほどけた
甘い 甘い 甘い ぬるくなったバニラ
(満月の夜なら)

たった3行である。

「満月の夜なら」の歌い出しは、「アイスクリーム」という言葉ひとつで、多くの情報を伝えている。本来は冷たい食べもの。それゆえに「アイスクリームが溶けた」ということが、ある程度の時間の経過と、冷たいものの温度が上がり、馴染んできたことを意味している。

さらに「甘い ぬるくなったバニラ」とあるとおり、アイスクリームは甘い食べもの。「君のアイスクリーム」が具体的になにを指すかは明らかにされこそしないものの、「僕」が悪い感情を持っていないことが解る。2人が甘い関係、言い換えれば良好な関係にあることも、示唆していると言える。

つまり「アイスクリーム」という言葉を用いることで、たった3行のなかに、時間の経過や「僕」の感情など、多くの情報を盛り込んでいるのだ。同時に、アイスクリームの温度と味を利用した、五感に訴えかける表現でもある。

横たわる君の頬には
あどけないピンクと更には
白い 深い やばい 神秘の香り
(満月の夜なら)

「ピンク」「神秘の香り」という、視覚と嗅覚を刺激する表現。特筆すべきは「白い 深い やばい」の三連投である。並べてみると、順序よく意味が広義になっていくことがわかる。言い換えれば、より曖昧になっていく形容詞が選ばれているということだ。具体性に乏しい表現を使うことで、リスナーに想像させる手法である。それは、これから始まるこの歌の世界観にリスナーを巻き込ませる、聴き手の想像力を利用したあいみょんの作家性とも言える。

夜の出来事を始終ポエティックに書ききった「満月の夜なら」だが、冒頭がすべて物語っている。本来は冷たいアイスクリームが溶けているという表現に、温度によるアイスクリームの変化に2人の感情を呼応させることにより、興奮のメタファーになっている。

どう考えてもベッドシーンの描写だが、五感を使わせることでより官能的に、かつ間接的で生々しくないシーンに仕上げている。まるい「満月」が、バニラアイスのことを表していると考えても、おそらく大袈裟ではないだろう。

空と雲で関係性を暗喩させた「マリーゴールド」


麦わらの帽子の君が
揺れたマリーゴールドに似てる
あれは空がまだ青い夏のこと
懐かしいと笑えたあの日の恋
「もう離れないで」と
泣きそうな目で見つめる君を
雲のような優しさでそっとぎゅっと
抱きしめて 抱きしめて 離さない
(マリーゴールド)

夏の情景を描くに際し、「空」「雲」という言葉を実に巧みに使った「マリーゴールド」。「空」は「笑えた」、「雲」は「優しさ」として、光景が感情とセットになっている。空が楽しい感情、雲が優しい感情だと仮定したとき、両者は矛盾せず共存する。「青空」と「雨」のように、対称的な構造にはなっていない。

このことが示しているのは、2人の割り切れない関係だろう。

雲は青空を隠すことはできるが、雨のような対立構造には不適切だ。言うなれば、青空のなかにグラデーションのように雲がかかる様子だろう。雲の多さは日によって違うし、それを恋愛感情の不安定な様相に当てはめているわけだ。

ああ アイラブユーの言葉じゃ
足りないからとキスして
雲がまだ2人の影を残すから
いつまでも いつまでも このまま
(マリーゴールド)

雲が影を残すという描写に、「優しさ」を含ませても意味が通る。空には雲があるが、影が残るだけの明るさもまた、残っているということなのだから。

「マリーゴールド」の1番で回想する付き合いたての楽しい感情から視点を現在に戻し、落ち着いた恋愛の安定期を描くと、それに共鳴するかのように「空」と「雲」がメタファーとして作用する。そして、空の明るさや雲の広がりに比例するように、2人の関係は進んでいるのだ。

微細な感情を描き取ることに長けているがために、リスナーの想像力を常時刺激し、イマジンがイマジンを生んでいる。それが共感となって、人々の心に響くのだろう。

いいからあいみょんを聴け!


このように、あいみょんはひとの気持ちを操れる特異な人間である。どう言えば人の心に刺さるのかを熟知している。たんに優等生的というわけではなく、J-POPという大きな看板を堂々と背負えるだけの力量を持つという点で、稀有な才能だ。

この3曲を擁するアルバム『瞬間的シックスセンス』、発売日は2月13日である。いまをのがすと永劫後悔する文字どおり旬なシンガーソングライター。いいからみんな、あいみょんを聴くんだ!

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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