破壊神伝説-外伝「ホテル行こっか事件」-

2018/09/14

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かつて、なにかにつけてモノを壊す、通称「破壊神」とバンドを組んでいたことがある。名をして樹里、なんと女の子である。ニトリにいけば展示品の回転椅子でグルグルと回り遠心力と体重で背もたれを破壊し(全額弁償したらしい)、はじめてバンドメンバーに手料理を振る舞う際にどこからか手に入れてきた豚足料理に挑み失敗するものの「豚足だから手料理にはノーカンよね」と笑えないジョークをほざき、なにもない駅裏を歩いているだけで「こっち側はじめて来た〜!」と嬉々としてはしゃぎ自動販売機に激突してコブをつくった挙句に脇のゴミ箱とともに転倒し中身を半分ほどぶちまけるなど、例を挙げ出したら枚挙にいとまがないが、ようするに落ち着きのないバカである。

そんな破壊神・樹里は、UFOキャッチャーを除くと、歌とドラムとギターだけはうまい。ギターを持ってステージにあがりマイクに向かうと、さっきまでの破壊神はどこへやら、一躍スターボーカリストだ。

そんな樹里は、以前に僕のエレキギターの部品を破壊した過去がある。じつはその直後、「ホテル行こっか事件」とのちに語り継がれる出来事があったことは、あまり知られていない(言っていないのだからあたりまえだ)。

樹里と組んでいたバンド・Radio Junxoneの下北沢でのライブで、彼女が僕のギターのストラップピンを破壊した後日、ホーム名古屋にもどってメンバーみんなで何度か会った。ある日の帰り、僕は東山線で、樹里はいつも名城線で自宅まで帰るのだが、この日は彼女は「わたし今日はこっちだから」と東山線に乗車した。あーそうなんだ、と思いながら、東山線で僕と樹里、そしてベースの純くんの三人で、名古屋駅まで帰った。

よく見ると今日の樹里はいつになく大荷物で、登山用みたいなデカいリュックを背負っていた。なにがはいっているのだろうと気にはなったが、どうせこの子のことだから必要のない着替えとかシャンプーとか入ってるんだろうなと思うことにした。

僕はバスで帰るので、純くんと樹里とは別の方向へ帰る。「あ、じゃあ僕こっちなんで、おつかれっした!」と二人に別れを告げると、樹里は「あ、わたしもこっちだから!」と僕とおなじ方向へついてきた。僕も終バスが近かったので、急ぎ足で歩きながらも樹里はどこへ向かうのだろうと考えていたのだが、不意に樹里が口を開いた。

色々としゃべったのだが、要約すると、「わたしはレオくんのギターを破壊してしまったことを申し訳なく思っていて謝りたい」みたいな内容を20倍に薄めて15分以上しゃべっていた。僕は僕で終バスが気になるし早く帰りたいしで、いつ話が終わるのか待っていたが、一向に終わる気配がない。

そんなことに付き合っていたら、終バスの時間が過ぎてしまった。しかたないので「樹里、俺もう終バスがないんだけどさ…」と話をはじめようと思ったのだが、そのとき。

破壊神・樹里は、さっきまでの20倍に希釈した謝罪をスパッと切り上げ、「よし、終バスも逃したことだし、ホテル行こっか!」と言ったのである。

後日談によると、どこぞの海外映画を観た樹里は、男のバイクを壊した罪をカラダでつぐなった女のストーリーを観て「これだ!」と思ったらしい。「これだ!」じゃねぇよ。なんで名城線で帰らなかったかと思ったら、これを虎視眈々とねらってたのかよ。デカいリュックもそのためか。

「今日いちにち、レオくんにカラダを捧げる覚悟で過ごしてきた」

「ホテルってドキドキするなー」

「心配しないで、わたしが持ってるなかで一番かわいい下着つけてきたから!」

かつて樹里の第一印象はかわいかった。おそらく世界水準で見ても彼女はかわいい部類に入るし、過去に同席した男も、ひとりで謎の単独行動をとる無邪気な樹里をねらって一緒についてまわったものだ。しかし、彼女の破壊神っぷりに辟易した男どもはだいたいその場を離れて僕らのいるほうへもどってきた(僕はこれを「脱北」と呼んでいる)。樹里を知る男は、見た目がいくらかわいくても、彼女のことをけっして色目線で見ない。僕もそのひとりだ。

だから、ギター壊されたことはいまだに根に持ってるし、なんらかのかたちで謝ってほしいとは思っているけど、「これをエサに樹里を抱ける、ラッキー!」というやましい気持ちは微塵とてなかった。だいたいあの単純思考の樹里の言う「一番かわいい下着」ってぜったい極端に派手な赤の透け透けTバックとかだよ。俺、赤も透け透けもTバックも好きじゃないし。

樹里の単純な「カラダを捧げる覚悟」は健気だとは思ったが、僕はまるでその気がなかった。悲しいかな悲しいかな。かわいいんだから、これはあとでお説教が必要だなと思った。そんな簡単に男にカラダ捧げちゃ破壊神のこのさきが心配だ。

そして僕は「終バス逃しちゃったから、終電で帰るわ」と近鉄名古屋線に乗りました。

おしまい

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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