中村佳穂の音楽に人があつまるのにはワケがある

2019/06/11

music

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なんて、自由な音楽なんだろう。なんて自由に、音楽を展開するのだろう。僕の中村佳穂への第一印象である。

中村佳穂の音楽には、宇多田ヒカルのような圧倒的なポピュラリティを感じた。宇多田がプロデュースした小袋成彬のアーバンなエモーションと、同じく宇多田が絶賛した折坂悠太のプリミティブな土着性、いわばこの両方を、中村佳穂は持っている。

ソウル/R&Bの復権と新世代のジャズを背景に、バンドミュージックとビートミュージックが融解した先のJ-POPが大きな流れを形成していた2018年。ceroやCRCK/LCKSはもちろん、吉田ヨウヘイgroupにも参加しているクロがフロントマンを務めるTAMTAMや、少しまえにメジャーデビューを果たしたRAMMELLSなど、Hiatus KaiyoteやThe Internet以降のバンドたちと中村佳穂に、音楽的なルーツが共有されていることは明白だ。

2018年11月にリリースされた『AINOU』は、レミ街の荒木正比呂と深谷雄一、CRCK/LCKSの小西遼、吉田ヨウヘイgroupの西田修大らとともに制作された。生演奏とプログラミングが有機的に溶けあったトラック上で、ソウルフルな歌を土着的に響かせる中村佳穂は、ポップ然としていても先鋭的であることに文句はない。上記のようにHiatus Kaiyoteらとの音楽的なリンクのうえで、あくまでも野心と魂の震えに従ってつくられたオリジナリティと、制作にかけた2年間という歳月にも納得である。




芸術の本質などという大それたことに、なにかそれらしい解答を用意できるほど僕は器の大きな人間ではないが、現代においての芸術の立ち位置を加味すると、それは「コミュニケーション」ではないかと提案したい。自分を知り、他者とつながりを持つ。SNSのシェア社会で、芸術が果たしてくれる役割は、その点において大きいはずだ。

「なぜ、これを選ぶのか」

中村の音楽では、だれもが生活のうえで選択を強いられるときに、常識や偏見に塗れて見落としがちな些細な動機がしっかりしている。例えば、楽しい気持ちを描きたいからポップにする、悲しい感情を表現したいから青色を選ぶ。そういった観念に色眼鏡を用いず、社会が用意した建前の正解にも振り回されない、れっきと芯のある個がそこにあるように思う。青色で表現する「楽しい」があっていいはずだ、ポップに唄う「悲しみ」があってなにがおかしい。芸術を安易に考えずに、中村佳穂というフィルターを完全に通過したうえで音楽をつくっている。スキャットひとつとっても、一見すると自由に唄っているようであるが、ビートとの相性を綿密に考えられている。

なぜ、この歌を唄いたいのか。BPMの設定や使用する楽器、ソロなのかデュオなのか、あるいはバンドなのか。すべての設計図が一貫して中村佳穂である。歌を通してその設計図を眺めたときに、彼女の葛藤がときに透けて見えたりする。そこには中村佳穂の人となりや、性格が現れていて、人間くさい。それがまた彼女の音楽に点在するスパイスとなって機能している。




中村佳穂の人間性。きっと彼女は、僕らが考える「ジャンルにとらわれない自由な音楽」や「時代の新鋭をいくあたらしい価値観」には興味がない。もちろん彼女の音楽を聴いて、結果的にそういった感想を僕らは持つけれど、中村佳穂という個人は、むしろ前述した「野心」や「魂の震え」を方位磁針として音楽を渡り歩いていると思う。

ひょっとしたら予想外だったかもしれない些細なことをきっかけに、人間が大舞台の壇上にあがるとき、そこにははかり知れない表現者の魂が渦巻いている。『AINOU』はそんなアルバムだった。そんな『AINOU』に流れる「表現者の魂」とは、やはり、Hiatus KaiyoteやThe Internet、アンダーソン・パークだったり、血湧き肉躍る音楽を日夜探求する人間たちの姿に似てはいるだろう。中村佳穂は、彼らを血肉として生きているのだから。


野心は一つ先に。
ただそこに美しく実る稲穂のような。
「聴いて、聴いて」と耳をワシ掴むではなく
ふと風が通るぐらいに気になって
気づいたら宝物になって
時が経つほどに意味を変えていく
そんな音楽を作りたい。
そんな私の言葉を真剣に聞いてくれる
大好きな人たちとの良いやつがもう直ぐでるよ!
(中村佳穂公式ブログより)

彼女の望む言葉どおりの音楽が、現実としてできあがっている。そこには、自分が唄う理由や、やりたいこと、それらに伴う「なぜ?」に、真摯に対峙してきた彼女の歴史が詰まっている。





AINOU。

ただ直訳したら「I Know」、私は知っていると受け取れる。「SHE'S GONE」で描いたような、パッケージングすることで消えない感情や、逆にかたちにすることで遠ざかる感情もあることを、おそらく中村はどちらも「知ってる」のだろう。それを断じ切るタイトルであるように見える。

しかし、肌色で象られたアートワークには人間ならではの奥ゆかしさがある一方で、「U」だけは稲穂に揺られている。I Know You. 身近にある感情のレイヤードされた物語のなかで、感動を共有する相手がいること。愛だ。それが幸せだ。

中村佳穂の音楽には、大勢の人間が携わっている。総て等しく、シームレスに、AINOUが語りかける中村佳穂のメッセージに共鳴した人間が集まる場所でもある。

だから、こんなにもあたたかく、だから、こんなにも自由なんだ。きっとね。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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