コートニー・ラブ率いるHoleは不思議な魅力を持ったバンドだ。コートニーのイメージのせいか、硬派なロックファンにはあまり興味を持たれていないような気がするが、基本的にはポップとハードの両方を兼ね備えた、優れてオルタナティブなバンドである。
なにが不思議かと言うと、コートニーの声である。歌唱力という意味では、決して上手くはない。上手くはないが、それにもかかわらず惹きつけられる確固とした魅力を持っている。夫であったカート・コバーンの死の直後である1994年にリリースされた「Live Through This」における乱暴なシャウトは聴けば聴くほどクセになった。低く太い声質も音程が不安定なところも楽曲のロック感を加速させていた。70年代の、無敵だったパンク・ロックの雰囲気さえも回顧させる。
次作「Celebrity Skin」では乱暴なシャウトを抑え、優しい歌声を披露。スマッシング・パンプキンズのフロントマン=ビリー・コーガンの全面的なバックアップを受け、ポップロック路線に宗旨替えしたが、これは商業的な大成功を収め、リリースされた「1998年」を代表する傑作アルバムになった。
そのなかでもひときわ輝きを放っているのが「Malibu」である。Aメロが、1998年で最も美しい瞬間に認定できる。歌メロが強力すぎてリフすら不要と判断したのだろう、イントロはコードストロークのみというシンプルに自信の表れようが見てとれる。それでも、コードのキラキラとした微細な輝きのひとつひとつが、いかにもビリー・コーガンが手解きをした感じを粒立たせている。
歌詞の文芸性も高い。「Crash and burn All the stars explode tonight」という、流暢な煌きと刹那的な快楽が同居する繊細な表現である。そして曲全体を通して逐一に渡りその発音が気持ちいい。破裂音や、濁音と半濁音が心地良いケミストリーを生み出している。言いたくなっちゃうフレーズが多いのは、名曲をつくるメゾットのひとつだ。
「やさぐれてるんだけど優しい」というモジモジとした面映ゆいスティグマ感のあるボーカルが、ロックの世界にとどまらない女性像としてのコートニー・ラブを引き立たせている。
こんな真っ直ぐな8ビートで名曲ってできるもんなんだ、と衝撃を受けた。音楽の無限の可能性を知らしめる一曲。
余談だが、「Celebrity Skinはオレがいなかったら生まれてなかった(意訳)」とビリーが発言したことにたいしギターのエリックが激怒したこともあったが、コートニーが「まあまあ、確かにビリーの貢献は大きいじゃない(意訳)」とジェントルな対応をしたことも懐かしい。僕は、ビリーの気持ちもわからんでもない。自らの手がけたアルバムが大きな評価をされたときは、褒めて欲しいのが人間というものだ。