BiSH「星が瞬く夜に」が真にパンクだということ

2019/11/03

music

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「BiSH -星が瞬く夜に-」は、インディーズでのファーストアルバム『Brand-new idol SHiT』に収録されている。発売からすでに4年以上が経過しており、メンバーの入れ替わりを経たいまなお、ライブには欠かせないBiSHの代表曲のひとつとして、ファンに愛されている歌である。

イントロの1音目から、まるで宇宙の向こう側から空間を裂いて楽曲に取り込もうとするかのような、目の醒めるドラムのビートが聴こえる。キャッチーなギターリフは脳髄を揺らすかのように我々の感情を扇情し、バンド(あえてこの表現を遣おうと思う)の名前を表題に冠するにふさわしいロックナンバーとなっている。

この歌に通奏されるのは、言わずもがなアイドルソングらしいアトラクティヴなポップセンスである。スキップやエアギターなど、アイナ・ジ・エンドの手がけた振り付けはどれも可愛らしいモチーフを要素として取り込んでいてアイドル然としているが、間奏でのヘッドバンキングや、ライブで繰り広げられるオーディエンスへのシャウト混じりのコールメッセージなど、そのスタイルに感じる熱量はもはやロックミュージシャンのそれである。

BiSHのディスコグラフィーにおける楽曲スタイル全体の特徴でもあるが、この楽曲の核はメンバーの個性的な魅力がふんだんに発揮されたソロ回しである。多くのアイドルソングは、AメロやBメロを各メンバーのソロに割り当て、サビは全員でうたう構成を採用している。この楽曲ではほぼすべてのパートを、メンバーがソロをリレーしながらうたい、サビの大半はメインボーカルであるアイナ・ジ・エンドとセントチヒロ・チッチが担う形式をとっている。

イントロの疾走感をそのまま掻っ攫うように続くAメロのパートをうたうのは、メンバーのなかでも抜群の歌唱力を誇るチッチとアイナだ。チッチの声は、伸びがよく清涼の香りがする。透明度が高く、アイドルとしてのパブリックイメージをそのままBiSHに持ち込みながらも、類をみない安定感を高い水準でキープしながら、骨太なイントロの印象を断ち切ることなく楽曲の世界観へと我々をリードする。すると間髪を容れずに、一度聞いたら忘れられないインパクトとペーソスが同居したアイナのハスキーボイスが、そのイメージを塗り替えていき、この先の展開を期待させる役割を果たしている。

チッチとアイナ、わずか冒頭のAメロだけで、メインボーカルのコントラストがかくも美しく響きあい、BiSHの歌心を支える存在感を放っている。

サビに向けて楽曲をさらに勢い付けるブレイクをうたうのは、現体制のBiSHに最後に加入したアユニ・Dだ。自身のロックバンド=PEDOROのベースボーカルとしても活動するアユニの歌声は、アイドルや、ひいてはJ-POPという大風呂敷を広げてみても、どこか異端的な異質さがある。声色のベースには可愛らしさがありながら、俗に“アユニ語”と呼ばれるクセの強いフックの効いた独創的な色気を併せ持っている。それにより、BiSHのボーカリゼーションのレンジが豊かになり、立体的な奥行きが生まれている。

2番をうたうリンリンとモモコグミカンパニーの歌声には、1番でみたチッチとアイナとはまた違う対照性がある。ふたりに通じるのはあどけない幼さだが、リンリンがいまにも壊れてしまいそうな儚い危うさを湛えているのにたいし、モモコの声は踊るような無邪気な憧憬を想起させる。感情を揺さぶることに関しては、むしろメインボーカルであるチッチとアイナよりもおあつらえなカラーを持っていると言える。歌唱力という意味で揺るぎのないチッチとアイナが絶対的な南北に喩えられるなら、聴く場所や心境、生活のなかで目まぐるしく変わっていく感傷のなかで印象がガラリと変わるリンリンとモモコのコントラストは相対的東西だと言える。

最後に、サビ前のハシヤスメ・アツコのパートだが、これも1番でアユニが与えた印象とは大きく異なる存在である。落ち着きのあるアダルティな声色を持つハシヤスメの歌が大サビ前に挟まることは、下手をすれば最上の盛り上がりに向けてクールダウンさせてしまう可能性があるなか、彼女のうたいかたやパフォーマンスは無上の盛り上がりを見せるサビを眼前にどっしりとステージに歌を据え置き、続くサビの輪郭がいっそう水際立つ効果を呼んでいる。

デビュー以来、“楽器を持たないパンクバンド”として、アイドルグループとロックバンドのハイブリッドスタイルを提示し続けてきた。ロックボーカルには、歌唱力はもちろんだが、それ以上にオーディエンスに訴えかける扇情的なカタルシスや、楽曲に込められたエモーションを正確無比に表現する高度なパフォーマンス、また代替の利かない唯一無二のインディヴィジュアリティが必要である。「BiSH -星が瞬く夜に-」は、文字どおりバンドの名刺がわりになる至極のパンクチューンである。

ただのアイドルではないBiSHが、パンクバンドを名乗り、自己紹介として自分たちのカードを切るとき、この歌は、6人のパンクボーカルを集めた最強のアイデンティティを湛えている。それを聴く我々は、「パンクだね」と認めざるを得ない。声のキャラクターのベクトルが不揃いでも、心地よく共存しているのはパンクバンドの抱える矛盾や閉塞感、ぶつけようのない各方面への葛藤のアティテュードを表していて、なおかつ、ここまで方位の異なる6人が、ただ一点のみを見つめてうたっているのだから。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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