友人から、「サラリーマンってツライね。やっぱ自分の情熱が注げるものを仕事にしたほうがいいよホント。お金とか安定を優先すると結局不満だらけの生活になるよ」というメールを受け取った。「鈍い痛みを常に抱えながら生きていくのかい? わたしはクレイジー・ジャーニーに出てくるひとたちみたいになりたい」そんな名台詞を思い出しながら最終電車に揺られてなんとなくApple Musicを開いた。すると見覚えのあるジャケットが目に入った。
久しぶりに再生したのはアラニス・モリセットのサード『Jagged Little Pill』。もしかしたら10年以上聴いてなかったかもなぁ、と思いを馳せつつ、むかしべつの友達と観に行った来日公演を思い出した。そのときのドラムはフー・ファイターズのテイラーだったなぁ。
多分みんな忘れてることなんだけど、アラニスの代表曲の「You Oughta Know」にはレッチリのジョンデイヴ・ナヴァロとフリーが参加してるのだ。「Ironic」とか「You Learn」とか、90年代を代表する名曲になったアラニスの名盤は、いま聴いても全然古くないし、通奏されるのはいい曲である。
しかし、ひさしぶりに聴いたなかで、いちばん心に響いたのが「Perfect」だった。フォーク調の弾き語り系なんだが、懐の深い奥ゆかしさがある。メロディも歌詞も歌声もただならぬ包容とおおいなる寛容にあふれている。カナダの当時20代の女の子がつくったのかよ、と驚愕する母性である。当時は傍に並ぶインパクトのあるエッジィでナイーブな曲をついつい聴きがちで見落としていたかもしれない。でもこの歌はすごい、いま聴いたらそのすごさがわかる。
心のやわらかい部分だけを利き手の指先でなぞるような優しいメロディは、歌い出しのアラニスのウィスパーボイスと相まって、思わず涙を流したまま背中をあずけたくなる。ハイハットを合図にドラムが乗っかると、オリエンタル歌唱法で力強さを増していき、今更こんなこと言うのも野暮だが、表現力として随分と卓越した円熟味がある。
シンプルな曲なんだけれども、抑揚のスケールが大きく、緩急のレンジも広い。小々波から津波までお任せあれといった感じだ。「I’ll live through you〜」から始まる大サビの暴走気味の展開がアクセントになって引き締まる。声を半分ほど裏返しながら、ここで感情爆発させるんだ。よくできてる。
完璧を求めることへのアンチテーゼを唱える歌詞は、冒頭に書いた友人のメールを読んだ直後の僕には随分と深いところまで刺さった。「いちばんになることを忘れないで」。少年少女になにかひとつメッセージを残して死ねるなら、遺書の最後に書きたい気分だ。