ポップとハードコアを行き来するニルヴァーナの偉大さ

2019/11/05

music

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ニルヴァーナは、音楽芸術におけるバランスの取りかたが非常に巧みである。バランスとはつまり、アイドルがメタルをうたうことで新たな価値観が生まれるというような、世界観と世界観のミキシングである。アイドルがアイドルっぽい歌をうたってもただのアイドルにしかならない。

ニルヴァーナの音楽はシリアスに攻める「ハード」なサウンドと、どこか拍子抜けするような「キャッチー」なモティーフの、それらのミックス加減で勝負しているといっても過言ではない。

彼らの出世曲、かつ代表曲、かつ歴史的名曲である「Smells Like Teen Spirit」は、低迷したグランジを爆発させた大曲であるが、そのタイトルはデオドラントスプレーから取られたことは有名である。ミュージックビデオも、ディストーションの効いたハードなギターサウンドとチアガールのコントラストは相当な衝撃だったはずだ。(ちなみに散々比較されてきたPearl Jamはどうだったかというと、ハードロックとハードコアの融合という意味で「キャッチー」と「ハード」のバランスを取っている。ニルヴァーナは“ポップなハードコア”、パールジャムは“シリアスなハードロック”と形容できるのではないだろうか)

そんな彼ら楽曲において、おそらくもっとも高い水準でバランスがキープされているのが「Scentless Apprentice」だろう。イントロで示される民族音楽的リズムパターンが期待感を膨らませるが、デイヴ・グロールのドラムそのものの圧力も凄まじい。リズム自体は、むしろ平和であると言ってもいいだろう。この平和なお祭りビートに、歪んだギターとベースが上乗せされる、その瞬間に「お祭り」+「ハードコア」の土台が完成するのだ。

イントロのドラムパターンをいかにおいしく料理するかだけに焦点を合わせている潔さは脱帽である。歌メロは聴きようによっては遠洋漁業の漁師のかけ声のような趣もあるが、有無を言わせない重戦車のようなグルーヴと組み合わせることでリスナーを快感に陥れるという見事なハイブリッドを実現している。そしてサビは裏返ったシャウトでハードコアに振り切ることで、非常に繊細なバランス感覚をギリギリのところで保っている。にもかかわらず、安心して聞けるのはひとえにバンドの力量である。

例えばジミ・ヘンドリックスの音楽は、いま聴いても「なにこれ…」という未知のものに対する畏怖に近い違和感があるが、ニルヴァーナのハードコアな楽曲にも同様の印象を受ける。彼らのラストオリジナルアルバム「In Utero」にはその違和感が満載で、名作ではあるものの、爆発的にブレイクしたバンドのわりにそういう意味ではとっつきにくさもあるだろう。

僕がひとに薦めるのも、また自身で愛聴するのも、1996年『From the Muddy Banks of the Wishkah』収録のライブ盤の「Scentless Apprentice」である。原曲よりもだいぶアップテンポで演奏されていて、リズムの楽しさがより強調されている。単純に演奏が生々しくてカッコいいし、シンプルに好きな理由が熱量として伝わってくる。彼らの楽曲のなかで聴いた回数でいけばライブバージョンの「Scentless Apprentice」が頭ひとつ抜けて多い気がする。ポップとハードコアの狭間でバランスを取るニルヴァーナ。そういう視点で聴き直すと、彼らの偉大さに改めて気づかされる。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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