2019年しゅーりょーのお知らせ

2019/12/28

日記

t f B! P L


「2019年も、終わったな…」
「終わりましたね。…僕たちの2019年が」

僕と米倉さんは、大通りに面した角の交差点に、二人で立ちすくんでいた。

さっきから、ポケットのなかでケータイが着信を繰り返している。

2019年が、終わろうとしていた。



✳︎



一年ほどまえ、よく泊めてもらうスタジオの近所にあったセブンイ○ブンが閉店した。

立地の良い、大通りに面した角にあったセブンイ○ブンのテナントはいまは解体され、まっさらな売地を経て、新たな建物が建ちはじめていた。ここ数ヶ月にもなると、建物の工事のため、足場となるイントレやシートがかかっていて、外からはなにが建つのか目測不可能な状態が続いた。

スタジオの内部ではこの一年間、「セブンイ○ブンの跡地になんのお店ができるのか」という話題で持ちきりだった。

受付の米倉さんは、「またコンビニとかできたらどうする?」と真剣な表情で懸念していた。しかし、そもそもコンビニのテナントは跡形もないのにその可能性はないだろうと思う。それに、そうなったらそうなったでまた便利になるからいいだろ、とも思う。

事務の紗英ちゃんは、「おしゃれなカフェになったりして!」と期待を膨らます。もしそうなったら、全員一丸となって上司の悪口をぶちこぼしに行こうと契りを交わした。

後輩の卓人くんは、「コメ兵とかできないッスか?」と冗談で笑いを誘った。みんなで「ここにいまコメ兵〜?」「一体なに支店だよー」と口々にツッコミを入れながらも、なんのお店ができるのかに思いを馳せる気持ちを共有した。

本日、スタジオが少々の設備改装をするにあたり、年末ということもあり、全員で仕事納めの空気感を満身に出しつつ、解散した。おつかれさまー。良いお年をー。また来年ねー。行き交う言葉に年末特有の情緒と切なさを噛み締めながら、僕もスタジオをあとにした。

セブンイ○ブンのあった大通り沿いの角を帰宅ルートにするのは僕と米倉さんである。みんなと別れたあと、米倉さんと新年会の打ち合わせをしながら歩いていると、彼女は「あ!」と大声をあげた。

なんと、工事中だったセブンイ○ブンの跡地のシートが取り払われ、新鮮な面持ちの建物が凛と立っている。

「ついにですね!」「ああ、ついにだ」と、まるでONE PIECE(ひとつなぎの大秘宝)を見つけた海賊のように感慨深い気持ちを米倉さんとシェアしながら、我々は一歩一歩、顔を見合わせながら歩いた。途中、自転車に乗った青年が、どすこいどすこいと歩く我々にたいし舌打ちのような視線を投げかけたが、ONE PIECEを見つけた我々に怖いものはない。米倉さんが歩きスマホでスタジオのグループLINEに「建立のお知らせ」というメッセージを投下した通知が、僕のケータイにもきた。

「もう米倉さん、気の早いー」「建立て、寺院とかに使うやつですよー」と諌めながらも、我々は覗くように歩いた。ここからだと、建物の外観しかわからない。シンプルでモダンな建物である。シャープなデザインは瀟洒だが、無機質ともとれる。「美容室とかかな」「あー、美容室だったら紗英ちゃん喜びますね」我々は逸る気持ちを懸命にこらえ、どすこいどすこいと歩いた。事務の紗英ちゃんは、新しい美容室に必ず行くタイプだ。

後輩の卓人くんから、「え、セブンのあとですか!?」と興奮気味の返信がグループLINEにきた。紗英ちゃんが『なんだって?』というスタンプとともに「写真送ってー」と続いた。悪口を言われる予定の渦中にある上司からも、『む?』というスタンプがきた。「みんなプロ意識が高いな」と米倉さんは言った。なんのプロだよ。

「あーちょっと待って、あと数メートルしかない! どうしよう!!」米倉さんが抑えられない興奮を隠そうともせずに動揺する。

「目的地は近いです。あと10歩で行きますよ!? 10、9…!」僕も謎のカウントダウンをはじめていた。きっと一年分の期待感の爆破テロに巻き込まれたテンションがすでにニーゼロニーゼロを迎えようとしていた。



✳︎



冒頭の時系列にもどろう。僕と米倉さんは、セブンイ○ブンの跡地に建立された建物のまえに、無言で佇んでいた。

開所祝いの胡蝶蘭が華々しく彩った玄関には、「選挙事務所」とあった。だれのかは知らない。憶えていない。憶える気もなかった。

長い沈黙をやぶり、米倉さんは言った。

「ンだよコレ! あんまりじゃねぇか!」
「一年分のワクワクを返せよテメェこんにゃろ!」
「おい、マニフェストだせ! この土地に有益な店を開くと!」
「だいたいうちの選挙区ここじゃねぇんだよ!!」

上はすべて婚活中の女性が地団駄を踏みながら放った言葉である。理不尽なことこの上ない。しかし、その理不尽に共感する自分は、なにも言えない。

さっきから、僕と米倉さんのケータイが着信を続けている。卓人くんや紗英ちゃんからだ。しかし、どう言葉にすればいいと言うのだ。この、圧倒的な無力感と、絶望的な脱力感を、どう言葉にして、彼らに伝えたらいいのだ。

米倉さんを見る。米倉さんも僕を見る。二人で頷く。

アイコンタクトで無視を決め込んだ我々は、来た道をとぼとぼと戻った。米倉さんが言った。

「ラーメン食ってくか」

みんなも誘おう、いまならまだ間に合うからと、米倉さんは高速でラインを開いて文章を打ちはじめた。無言で僕は頷いた。

本気を出した年末の冬風が、スタジオ全員分の一年をさらっていった。2019年、しゅーりょー。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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