生き様と歌の力で表現しつづけたジョニー・キャッシュ

2020/01/28

music

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オルタナ・カントリーにアプローチしてくるミュージシャンには、大きく分けてふたつの源流がある。ひとつは Wilco や Ryan Adams に代表される、パンクを中心としたロック・アーティストからのアプローチで、主流はこっちだろう。スタイルだけの真似なんかじゃない。カントリーへの愛とリスペクトを持ってアプローチしていて、先人の系譜やアティテュードを壊さない音楽をしている。

そしてもうひとつ、それまでの枠に収まり切らなくなった、カントリー音楽界からのアプローチ。Johnny Cash や Emmylou Harris ら大御所の動きは、保守的で型にはまった頭の固い業界を驚かせた。だけど、元々カントリー音楽っていうのは保守的なものじゃないと思うのだ。「果たして Hank Williams は保守的なのか?」という問いに、首を縦に振るものはいないだろう。60年代以降、時代観からスタイルを重視したカントリーが増えたことで、良くも悪くも“無難な”音楽に変わってしまった、といったところか。もちろん70年代にナッシュビルに反旗をひるがえした、Willie Nelson などの例もあるにはあるんだが、原則に対する例外の域を出ない。

型にはまらないスタイル。

近年の Emmylou Harris は、それこそ前人未到の音楽をつくり続けている。対して Jonny Cash は、なにも変わっていないと見てとれるだろう。もちろんサウンド・アプローチにオルタナの意志を汲んだものはあるが、それよりも精神的なもののほうが大きい。その Johnny Cash の精神は、実はデビューからずっと変わらずにいて、そして強烈な個性を発している。

Johnny Cash の経歴を話す必要はないだろう。アメリカの良心と呼ばれるカントリー界の大御所、重鎮で、55年のデビュー以来カントリー・チャートに130曲以上、そのうち40曲以上をポップス・チャートにも送り込んでいる型はずれのレジェンドだ。彼のもっとも有名な曲は、全米2位まで上がった "a Boy Named Sue" (69年) だろうか。1980年に史上最年少でカントリーの殿堂入りを果たしたと思えば、1992年にはロックン・ロールの殿堂にも選ばれるという類い稀な経歴を持つ歌手である。

そんな彼の特徴は、投げかける強烈なメッセージだ。もちろん歌詞に込めたものが強いのではあるが、常に黒い服に身を包み the man in black と呼ばれたのも、ベトナム反戦や社会批判から喪服のつもりだったという。また、多額の寄付を全世界多分野に続ける傍ら、刑務所でのコンサートにも出演。それを録音した事も多々あった。

思えば前述の "a Boy Named Sue" もそうだ。これって、女性名を付けられた少年が酒場で父親を見つけ、殴り合って殺してしまう、そんな詩を強烈なバリトン・ヴォイスで歌うんだが、そんな曲を刑務所で録っちまっていいんだろうか。というか、そんな曲がヒットしてしまう世も末である。

そんな Cash が近年注目されたのは、U2 の "Zooropa" (93年) での共演からだろう。元々デビュー当時の Bob Dylan との親交が有名なほど、ロック/フォーク界とも繋がりがある Cash だが、U2 のアルバムの中でリード・ヴォーカルをとるとはだれが予想し得ただろう(曲は "the Wanderer")。そして、Rick Rubin 主宰の American Recordings への移籍! かの Rick Rubin である。Beastie Boys や Red Hot Chili Peppers のプロデューサーのもとへ。これにはみんなビックリしたと思う。

しかしその移籍第1弾、その名もズバリ "American Recordings" (94年) は、オルタナ・カントリーの重要な作品になった。全編アコースティック・ギターの弾き語りのアルバムが、強固なメッセージを訴えかけてくる。ギター弾き語りって、こんなに説得力があったんだ…と気づかされるような存在感に、無力に立ち尽くすことしかできない。迫力がすごい。カントリー界の重鎮というよりも人間ひとりの器量の大きさを感じさせる作品で、廻りに与えた影響も多大だった。

そして、移籍第2弾がこの "Uncahined" 。このアルバムはバンドサウンド。プロデューサーは同じく Rick Rubin だけど、演奏は Tom Petty & the Heartbreakers が完全にバックアップ。しかし Cash の歌に込めたメッセージの強さは、変わることがなかった。

"Rowboat" を初めて聞いたのはMVだったんだけど、僕の感想は『恐い』だった。黒い服に身を包んで、凄むように強烈なバリトンで歌う姿を見たとき、僕は人間の底知れない悲しみの渦中に触れた気がした。もちろん Johnny Cash は知っていたし、過去の曲は聴いていた。だけど、この威厳というか、ひととしての凄みは知らなかった。この曲は、なんと "Loser" の Beck の曲のカヴァーだ。

そして "Rusty Cage" は Soundgarden のカヴァー。うねるようなグルーヴで迫ってくるこの曲は、僕のフェイバリットだ。前半のアコースティックな部分でさえ強烈なのに、後半のグルーヴィさは素晴らしい。そこまでハードでいて、カントリーなんだよね。決して外れたことはしていない。つまりそれは、オルタナ・カントリーだということだ、と思わずにいられない。

"Southern Accents" は、演奏面で全面協力した Tom Petty の曲。作った本人が演奏で参加していて、それなのにこの Cash の強烈は個性はなに? すっかり自分のものにしていて、作者も驚嘆である。Tom Petty って大好きなんだけど、こっちのヴァージョンのほうが好きかもしれない。いい曲なんだ。なんだか、優しい気持ちにさせてくれる。

ロック系のカヴァー曲ばかり話してしまったが、"Country Boy" や "Mean Eyed Cat" などはさすが自作曲という歌いっぷりだし、"See of Heartbreak" や "Memories Are Made of This" などのスタンダードなカントリー・クラシックも素晴らしい出来だ。だけど、アルバムを通してひとつのカラーがあるのは、Johnny Cash のバリトン・ヴォイスの力であり、歌に説得力があるのは彼の心が伝わってくるからだと思うんだ

アルバムの完成度は次作以降も変わらない。しかし時代に与えた影響は、ファーストの "American Recordings" とこの "Unchained" のが大きいだろう。この2作は、共にグラミー賞の最優秀カントリー・アルバムを受賞しているが、それ以上に他のミュージシャンへの影響の文脈で語られるべきだ。そして、オルタナティヴという面から見たときには、"Unchained" のほうが理解しやすいと個人的には思う。

さて、これ以降の Johnny Cash は、病気との戦いも大きくなっていく。元々80年代から心臓のバイパス手術を受けたり、下顎の骨折とそのための鎮痛剤のためのリハビリなど、入退院を繰り返していた。しかし97年、敗血症と肺炎を併発して10日間の意識不明。そして悪性のパーキンソン病で余命1年と宣告されます。しかし適切な治療の結果、体を回復させる事に成功した。奇跡とよく似たこの一連の出来事は、彼の気力の強さもあったような気がする。

ここで『のんびり暮らす』という医者のアドバイスを押し切り、99年、自己のトリビュート・コンサートに出演。そして次作のレコーディングに入ります。2000年に発表された "American III: Solitary Man" は涙の傑作。弾き語りではないものの、アコースティックに振ったサウンドに感動したファンは、当時多かったはずだ。02年の "American IV: the Man Comes Around" では Fiona Apple とのデュエットが話題を呼んだが、これが、遺作になってしまった。

2003年9月13日、糖尿病の合併症で Johnny Cash は亡くなった。享年71歳。残念だ。もっともっと、僕たちにメッセージを投げてほしかった。そして若いミュージシャンを引っ張って、まだまだ音楽業界をリードしてもらいたかった。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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