友達にスニーカーの魅力を聞かれたところ、途中で寝られてしまった。酒の入った席だから仕方ないとは思うが、消化不良で終わったぶんをここで燃焼させようと思う。長い。長いが、これはスニーカーへの愛である。
色や形ごとに表情が変わるコンバース・オールスターの魅力
チャック・テイラー、と言ったら、日本ではあまり馴染みがないのだろうけど、コンバースのオールスターのことだ。
過去、それはもう様々な色や形や素材のオールスターを履いて来た。
とくに、最近こそご無沙汰している色だが、いままででいちばん履いてるのは、キャンバスのローカットの生成りである。何足も何足も履きつぶしては買い直した。買ってすぐのピカピカの状態はクリーム色が強すぎて、ちょっとなよなよした雰囲気ではあるが、何日間かベランダで日焼けさせたり、毎日履きつぶしてるうちに色が馴染んできて、カッコよくなっていく。
形は、だいたいローカットを履いていた。
ハイカットにも良さはあるけど、くるぶし辺りをガッツリ覆うハードな感じと、パンツの裾が引っかかってキレイにストンと落ちてくれないところ、あとはなにより脱ぎ履きのしにくさから、少し履くのが億劫になってしまう。
だから、基本的にはローカットなのだが、色によっては、「ローカットよりもハイカットのほうが断然カッコいい色」もあって、個人的に黒はそれにあたる。
黒のオールスターはどうやったってロックな匂いがしてしまうんだけど、甲本ヒロトみたいにピタピタのスキニーデニムにハイカットの黒のオールスターなんて最高だ。
アラサーになってからは、いかにもロックンローラーみたいな服装を街でするのはちょっと気が引けてしまうけど、たまにライブハウスにバンドを観に行くときとかはスキニーデニムに黒のハイカットを合わせてみたりもしている。あとはロックといえば、キングブラザーズのマーヤが履いてる青のオールスターも真似したくなって買ったこともある。
真冬になると足許が冷えてしまうから、レザーのオールスターを履く機会が増える。
お洒落は我慢なんて信念はいつからか捨てたので、寒いときには暖かい格好をするようにしている。だから冬場は白レザーのオールスターローカットと、黒レザーのジャックパーセルの出番が増える。
ちなみにではあるが、ジャックパーセルの場合は、同じ黒でもオールスターのようなロック感は無くって、大人のスニーカーって感じで落ち着いたコーディネートにもよく似合う。これに関しては後述する。
なにに合わせてもコーディネートの邪魔をしない万能性
キレイ目ニットをトップスに持ってきて、ツイードパンツの足許にオールスター。なんて超カッコいいよね。
自分の性格上なのか、お洒落が好きで常にファッションに触れてきたからなのか、色々な系統の格好をしたくなってしまう。
ある日は思いっきりニューヨークのストリートな気分でSTUSSYのスウェットとノースフェイスのダウンジャケットを着て、次の日には英国紳士な気分でツイードジャケットの上にマッキントッシュのゴム引き、その次の日にはフレンチマリンだぜとアニエスのボーダーTの上にピーコートを着てマリンキャップを被ってみたりする。
そんな感じでファッションの振れ幅が大きい人間なので、日によって合わせるシューズを選ぶのが大変だったりするんだけど、オールスターならどの格好でもOK。驚異的な包容力で、どんな服装にもピッタリとハマってくれる。合わせやすさで言えば御飯時に出る白米の持つそれである。
しかも、オールスターがコーディネートの主役になることは決して無くて、そこにあるのが当たりまえみたいな顔で足許に収まってくれるのが憎い。この絶妙な存在感が、30を迎えようとする自分のファッション感、大袈裟に言うと人生観にマッチしてくれていて、ますますオールスターを愛でる気持ちが高まっている。
全身をシンプルにまとめて、ポンプフューリーとかのド派手なハイテクシューズで外す。みたいなのは、20代のころによくやっていたのだけど、いまとなってはそれも「外してまっせ」感が強すぎて気恥ずかしいので、ちんまりと収まってくれるオールスターが丁度いい。
オールスターは女子にもハマる
女性がオールスターを履いてる感じも好きだ。
miniとか読んでそうなストリートっぽい子が、夏場にメンズライクなショートパンツにオールスターを合わせる感じとかも好きだけど、まだそこにはVANSのERAやオールドスクールみたいな代替品もある。それよりも、モードやコンサバ寄りのコーデの外しにオールスターを使うぐらいのバランスがいいと思う。ちょっとくるぶしがみえてるぐらいの抜け感で、気分は菊池京子でいこう。
現行品で満足できてしまう
これも性格上の話にはなるんだが、ヴィンテージとかレア物とかの要素にはあまりロマンを感じないので、デッドストックのチャックテイラーを古着屋で漁ったりとかは一切したことがない。
いや、ヴィンテージの良さはわかっているつもりだし、66年製のフェンダー・ジャズマスターを借りてマーシャル直差しで鳴らしたときは感動そのものだった。ただ、それは楽器の話で、スニーカーを消耗品と割り切っている自分には靴にヴィンテージを求める嗜好はたしかにない。
友達には、アメリカにわざわざ行って、状態のいいチャックテイラーを探し回るひともいるけど、個人的には現行のオールスターで必要十分。マイナーチェンジされるごとに履き心地も良くなってるし、オールスターは常にいまが最強と思っている。
でも、最近販売されている100周年記念のマイナーチェンジで、ヒールパッチが変わったのはちょっと残念だ。あの、履いてたらすぐにプリントが剥げてくるのが、履いた証っぽくて良かった。パッチのデザインもちょっと変わったし、いまのうちに買い溜めを考えるレベルだ。
ファッション玄人から素人まで
ときおり、「オールスターはみんなが履いてるからダサい」みたいなこと言うひとがいるけど、そんなバカな話はない。
アパレル業界の人間、あるいはファッションが本当に好きな人間にそんなことを言うやつはいない。ファッションの歴史とか文化的背景を知っていて、リスペクトする気持ちを持っていれば、そんな発言は出てこないはずなのだ。
まあそんな小難しい話をするのは肩に力が入りすぎているから脇に置くとして、世界中のどこの国に行っても、男でも女でも、子供でも大人でも、お洒落なひとでもダサいひとでも、だれでも簡単に手に入って、気兼ねなく履けるのがオールスターだ。
だから僕もずっと飽きずに履き続けているのだろうし、たぶん死ぬまでずっと履くんだと思う。
ところで、ジャック・パーセルについて
ジャック・パーセルはバドミントン・プレイヤーのジャック・パーセル氏が開発に関わった。
当時はバドミントン、テニス、スカッシュの選手が多く使用したシューズだ。オールスターはバスケットシューズなので、現代の感覚からしたら見た目が似ている二足だけど、出自が違う。(ちなみに、オールスターがバスケットシューズだという出自が信じられないくらい、オールスターは運動に向いていない)
スニーカーを愛でる上で、そのシューズがもともとはなんのスポーツのために作られたものなのかは、とても大切なことだと思っている。
例えばB-BOY、B-GIRLから愛されるスーパースターは当然ながらバスケットシューズだし、オールド・スクールはスケートシューズだ。これが、もしもサッカーやテコンドーが出自だと、ヒップホッパーに愛されることはなかっただろう。
カルチャーはクロスオーバーしながら緩く結びつく。
まあこれはスニーカーに限った話でもないんだけど、ありとあらゆるアパレルアイテムにはルーツがあって、それを知っていることで「なにと合わせよう」っていう判断が、より深いものになると思っている。
自己満足かもしれないけど、大切なことだと思う。
機能が靴のデザインを呼ぶ
テニスとバドミントンは兄弟だという、やや強引な前提で進めてしまうけれど、テニスシューズの名作といえば、アディダスのスタンスミスが挙げられる。
ジャックパ・ーセルとスタンスミスには共通する雰囲気を感じる。
この感覚を言葉でうまく言い表すのは難しいけれど、「上品」「クリーン」「柔らかさ」…そんな、少し賢い雰囲気が感じられるのが、この二足だ。
爽やか紳士のスポーツであるテニスやバドミントンで使うシューズだから、あのデザインなのだ。機能はデザインを呼ぶ。求める人がデザインを呼ぶ。
ジャックパーセルの「優等生オーラ」
ジャック・パーセルには独特の「優等生」な匂いがする。オールスターに比べて丸みを帯びたシルエットや、トゥのヒゲ、ついでにいえば履き心地も柔らかい。
女子がジャック・パーセルを合わせるといい感じになるのも(もちろんオールスターでもいい感じにはなるんだが)、男臭さを感じさせないジャック・パーセルの個性によるものだと思っている。
ジャック・パーセルを語るうえでニルヴァーナのカート・コバーンは外せないけれど、彼がオールスターでなくてジャック・パーセルを履いていたは、意味深長であり逆説的だ。
いつも小汚い格好をして退廃的な音楽を好むカートが「あえて」ジャック・パーセルを選ぶことに意味があるし、その感覚こそファッションにおける「外し」のお手本だ。
王道を外す遊び心にはバランス感覚が必要だ。カートがそんなことを考えていたとは思えないし、ナチュラルボーンな感覚やセンスで、それをやっていたのだと思う。
おなじブラックでも全く違うオールスターとジャック・パーセル
オールスターの黒にはどう頑張ってもロックンロールな雰囲気が漂う。今まで世界中の数え切れないロックミュージシャンに愛されてきた歴史がそこにはあるからだ。
クロマニヨンズでもThe Birthdayでもベンジーでもキングブラザーズでもニートビーツでもいいけど、ゴリゴリのロックンロールバンドのライブにいけば、客席の足元は黒いオールスターとマーチンだらけになる。音楽とファッションの関係もまた面白いけど、それは今回は割愛する。
おなじブラックでも、ジャック・パーセルにはやっぱり柔らかさがある。
キャンパスの両者で比べると、アッパーに白いステッチが目立つオールスターに対して、ジャック・パーセルはよりプレーンだ。この違いが個人的には結構大きいし、ジャック・パーセルの汎用性の高さの源と思っている。
これはホワイトにも言えて、なんと呼ぶのかわからんが、オールスターはソールとの境目の部分が赤いラインになっている。ジャック・パーセルはそこにアクセントはない。トゥのヒゲが唯一のアクセントだけど、これが青ヒゲじゃなくて赤ヒゲだと印象も違ってただろう。たしか、限定カラーでそんなのが出てた気もする。
持たない主義の強い味方であるオールスターとジャック・パーセル
学生時代に、靴箱をどんどん侵食していく僕のスニーカーを見て、訳あって同居していた女の子が「あんたはムカデか」と文句をいっていた。ある意味、それが現実ならどんなにいいかと思う。もっと言えば千手観音とか十一面観音とかだと指輪や眼鏡や帽子もたくさん着用できてうれしい。とはいえ、何度見ても僕の足はやっぱり二本しかなくて、スニーカーを履ける日は限られている。
30を目前に控えたいま、数少ないお気に入りをローテーションしていくライフスタイルにしたいと思っている。たくさんの種類をコレクションする時期は過ぎた。極論、スニーカーはオールスターとジャック・パーセルだけでいいんじゃないかとも思っている。
ミニマリストとか、フランス人は服を5着しか、みたいな文脈に似ていて気恥ずかしいけど、たくさんの物を抱えて生きていくのは、文字通り荷が重いと感じるようになった。
どんなときでも上品に収まってくれて、あらゆるファッションに合わせる汎用性を持つコンバースのスニーカーは、そんないまの僕の強い味方だ。
もっとも、知り合いが履いてた白のスタンスミス、いまめっちゃ気になって探してるんですけどね。そんじゃっ。