バカリズムが『架空OL日記』で建立した女性像が、どんだけすごいのかってことよ

2020/03/04

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バカリズムはよくテレビ番組内において、女性あるいは女子を戯画化しておちょくるようなコントを披露する。これは、彼の独特のミソジニーとでも言えよう価値観なのだが、『架空OL日記』においてそのミソジニーは一切微細描かれておらず、ありがちな「OLモノ」の展開を始終透徹避けたまま完結した作品が本作である。

ドラマ版のエピソードをここで挿入してしまうことになるが、『架空OL日記』の哲学を端的に表現していた台詞が「サエちゃんはそういう子」である。

後輩のサエちゃんは、みんなが酢豚を食べに赴いた店で水餃子定食を頼んだり、更衣室に食べかけのグミを置きっぱなしにしてネズミの侵入を許したりするが、ここでOLのあいだの陰口や、「あの子ちょっとね…」と除け者にするような描写がない。「サエちゃんはそういう子」なのである。

会社の仕組みやシステムのせいで、下で働くOLがいがみ合うのは馬鹿々々しい。抑圧的にも聞こえるが、できるだけ穏やかに毎日が過ごせるならそれがいいと思うのだ。『架空OL日記』は、その理想をひた走っている。厳しい者もいて、間の抜けた者もいて、各々が主張と干渉を繰り返しながらも、そこに亀裂が入ることはなく一丸で連帯し、齟齬なく終わる苦しい仕事の毎日は楽しい。

シスターフッドと呼ばれる「女性の連帯」は、朝ドラの『べっぴんさん』『ひよっこ』もそうだし、TBSの『逃げるは恥だが役にたつ』『カルテット』など、近年盛んに描かれる主題のひとつだ。『架空OL日記』もその潮流のなかに生まれた作品である。その連帯には、「女性とは淑やかにあるべし」とでも言わんかのような、男性目線の女性の理想像は含まれておらず、したがって『架空OL日記』をはじめ上記のような作品のなかには、いわゆる「萌え」を感じさせるような性として消費される女性は登場しない。

女性を、男性から見た理想像として扱うか、女性から見た女同士の犬猿として扱うか、どちらのパターンも作品として存在する。『架空OL日記』はそれらのどちらでもない。そういった観点を完全に抜き去って、なおかつおもしろく笑えるのは、これはもうバカリズムの才能としか言いようがない。

作中に描かれた一基やJは男性であり、立場上は愚痴の矛先というか、人間的にそこまで性悪なひとなわけではないと思うのだが、会社内で上の立場に立っているからこそ鈍感になったり無自覚である側面があったり、そういった部分がしっかり描けている。なにより、筆を取っているバカリズムが他ならぬ男性である。それは単純にすごいことであるとともに、バカリズムの天与の観察眼の賜物として、矛盾なく同居しているということなのだろう。



物語以外での話も少し。



撮影の基盤となるアングルはドラマで使われたものを踏襲しており、これはドラマ版のときからもおなじであるが「カメラの存在を意識させない」ことを意識したアングルになっている。バカリズムは芸人である。当然、「アングルの誇張によるカメラワークでの笑い」を知っているはずだが、それに意図的な封をすることで「OLたちの自然な風景」を演出する効果を生んだ。

照明によるライティングのコントラストも極めて自然なものになっており、メインキャストが女性となる点からは、ビューティーフィルターが若干のっている青を基盤としたトーンである。ただそれでも、全体的にかかった「青」のトーンと、おなじく「青」を基調とした制服、それらのなかで、表情に関して一切の濁りもなく演者の「顔」が立体的に写っている。映画そのものを総合的にフィルタリングする青のトーンと、そのなかであくまで主人公として大きく作用する役者の顔のトーンの対比は、きっと明確に調整されたのであろうことは想像に易い。

主題歌はドラマ版とおなじく吉澤嘉代子の「月曜日戦争」。テレビドラマが映画になるとき、力の入れどころを誤ったタイアップが作品観を濁すこともあるが、みんなが親しみ、やっぱこれだよねと落ち着く楽曲に憶える満足感、充実感はやはり代えられない。



また、個人的な話だが、ドラマから映画になるまでに出産を経た小峰さまこと臼田あさ美が、完全に母の顔になっていたことが、観はじめたときやや不安になった(直前に『蜜蜂と遠雷』を観て明石の妻としての彼女を見たせいかもしれない)。ただ、その唯一の心配ごとが、小峰さまの結婚によりすべて回収されたいま、観終わった感想としては文句のつけどころのない百点満点である。



女性が実際に職場でなにを話し、どういった人間関係を築いているか。そんなのは関係ない。おもしろい映画を観たいという感情の向かう末になにがあるかが重要なのだ。

私たちが欲しいのは、真実ではなく矛先だから。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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