『リンダリンダリンダ』に通奏されるロックの美学と青春の激情

2020/05/01

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ロックの神様がつなぎあわせた出会い



「次にジュース買いに来たひと、ボーカルね」と言った言葉は投げやりに聞こえた。しかし、何人かが来るもなかなか決まらない。『リンダ リンダ リンダ』の印象的なシーンである。「だれでもいい」と言っていたはずなのに、その言葉の裏に、三人のバンドへの内面的な情熱が垣間見える。本当は、だれでも言いわけじゃない。最後の文化祭、精一杯のパフォーマンスをしたい。

通りがかったソンとの出会いは、偶然にも見える、必然とも感じられる。しかし、ロックバンドとは、そもそもそういうものである。

もし、ジョンがいたクオリーメンのライブをポールが目にしなかったら…。

もし、幼なじみだったミックとキースが青年時代に再会しなかったら…。

もし、ウォーホルとヴェルヴェッドが出会っていなかったら…。

もし、ピストルズの親衛隊にシドがいなかったら…。

ロックバンドには必ず偶然の奇跡が起こる。響子と、恵と、望。そして、ソン。ロックの神様が遣わせたように四人はひとつのバンドになった。

普通、文化祭の直前にメンバーの脱退があったら、ステージを諦めるだろう。それでも、青春の只中にいる彼女たちは諦めない。アンニュイにも見える静かな瞳の奥に、情熱を滾らせている。


動きだしたソンの文化祭



留学生のソンは、文化祭が始まるまでは、近所の小学生しか友達がいなかった。文化祭で担当する韓国文化の紹介展示も、担当教員がほとんどを手掛けていて、ソンは文化祭に上手に参加すらできていなかった。

しかし、恵たちのバンドのボーカルを務めることによって、ソンの文化祭はガラリと変わる。カラオケ店に練習しに行き、常にイヤフォンに流れるのはブルーハーツ。受け身だった文化祭が、これらのシーンによって、ソンの主体的な文化祭になる。

初めてブルーハーツを聴いたときの涙に始まり、次第に熱を帯びていくソンの毎日は、青春の美味しいところを満身に施されている。青春映画につきものな躍動感は、この映画にはかえって胡散らしく映るだろう。アンニュイでリアルな女子高生の等身大な進みかたが、賛否を分けたのはおそらく事実だろうが、賛、むしろ絶賛の立場をとる僕はこの気怠く物憂さな取り組みかたこそが、青春だと思うのだ。一日だって無駄はない。しかし、それが青春だと気づくことができるのは、すでに青春が終わってからなのだ。

四人とも、青春を青春だと認識しているわけじゃない。しかし、宿直の先生がいる校舎に忍び込み夜な夜な練習するように、一日たりとも無駄にはしない。即席バンドで時間に追われていたことも加味されるだろうが、バンドがバンドでいられる限られた時間を全霊で楽しむ気構えは、あとになって思い返す青春の心象風景そのものである。


サボるから楽しい、そこに意味がある



この映画のいいところは、練習をサボるシーンが満遍なく描かれていることだ。音楽映画にありがちな、クライマックスへ向かってカタルシスを突き進む努力があまり描かれておらず、それがかえって演出に現実味を持たせており、ソンの名場面につながる。

ソンが、どれだけメンバーに愛着を持っているか。低温度で文化祭に向けて躍進するメンバーのなかにおいて、ソンは初めて見る景色や、初めて体験する光景に目を躍らせていた。「いひひ、みんなパンツ見えてる〜」、このバンドがなかったら絶対に見えなかった世界観に興奮するソンは、強引に迎えられたバンドの内情を知らない。

夜の屋上で、恵がソンに話すバンドの経緯は、この時点で初めて観客にも説明されることになっているが、物語上の意味を付与することで説明的にならず自然な流れである。「わかった?」と訊く元キーボードの恵、「わからない」と韓国語で返すソン。わからなかったことがわからないまま四人は会話を転がし、とうとう文化祭が終わるまで(きっと、終わっても)ソンはそのいきさつを知らない。

しかし、ソンはほかの三人を心から慕い、尊び、愛することができている。だれもいないステージでメンバー紹介をするソンの名場面は、表面的にはなにもわかっていないソンだからこそ持ちうる説得力を秘めている。

そして同時に、メンバーにも通じている。恵のみた夢で、トイレで顔を洗うソンと話すシーンである。韓国語と日本語で、完璧に疎通している。恵自身も、ソンにたいし願望を持っていたのだ。きっと、響子も望も同様に。


音楽に余計な荷物を背負わせていない



しばしば、映画音楽において「音楽」そのものが多分に役割を担うことがある。劇中における音楽の扱いが、世界全体を動かしうる強力で、現実離れした、神がかった存在として描かれるアレである。しかし、そんな都合の良いものを現代でつくりだすのは非常に困難で、いい加減に制作されたものを劇中で流して「これが物語では世界を変えたんだ!」などとのたまわれても、気分的にしっくりこないのが実情だ。

本作においての「音楽」はそうではない。主人公たちがライブをして生徒たちが盛り上がったとしても、それはその一瞬の出来事であって世界を変えるようなシロモノではない、というある種の諦念が見て取れる。では、本作において音楽によって変化するものはなにもないのか。そんなことはない。あるものが決定的に変わるのだ。それは主人公たちの「世界の見方」である。

青春というものは、一言で言えば言語化しがたい悩みや葛藤と戦うということである。しばしばそれは叫びや涙となって爆発する。主人公たちも音楽にその思いを乗せている。秀逸なのは、ボーカルを韓国人留学生にしたことである。まさしくソンが胸に秘めていることは、ブルーハーツの歌詞にあるような情動であり、それを歌にして彼女は爆発させる。しかし、彼女にはバンドの経緯と同様にして歌詞の意味はわからない。なにに悩んでいるのかもわからない。だが、だからこそ、その叫びは真に迫るものがある。

音楽が音楽として、映画劇中での役割を全うしたとき、そこにある激情が景色を変えるのを実感する。劇中音楽を担当したスマッシング・パンプキンズのジェームス・イハは、余計な荷物を音楽に背負わせずに、清澄なカタルシスを得ることに徹底している。だから、音楽映画におけるブルーハーツの「リンダ・リンダ」が胸を打つのだ。


最後が雨である必然性



感性とリテラシーが必要になるが、この映画が最後に雨のシーンで終わっていることに着眼したい。

青春を晴れやかに燃え尽きるためには、青空というものは適材であると思う。しかし、この映画では土砂降った大雨で締めくくられる。

まず、物語上は軽音部のステージである体育館に生徒を集めるためである。劇中で、湯川潮音演じる萌と、ME-ISMの山崎優子演じる中島先輩が、観客を振り向かせるシーンがあったが、あれは雨で大人数の生徒が集まっていたことが前提にある。萌のうたうスコットランド民謡「The Water is Wide」や、ユニコーンをカバーした中島の「すばらしい日々」、そして二人によるはっぴぃえんどの「風来坊」、いずれも確かな歌唱力や演奏技術に起因する効果で生徒の目線をステージに誘導した名演だが、そのためには目をくれずとも多数の観客が必要になる。そのため、大雨でキャンプファイヤーを中止にさせ、メインとなる演目をロックフェスティバルに移行させる必要があった。

次に、集まった生徒を盛り上げる役割である。たいしてうまくもない演奏なのにあれだけ生徒が盛り上がるのは不自然だという指摘があるが、それは的を射ていない。文化祭最終日の夕方に降った雨、後夜祭もキャンプファイヤーも中止である。ただでさえ文化祭でナチュラルハイになった生徒たちの鬱憤は、ヘタクソでもロックとは相性がいい。もちろんそこに、ボーカルであるソンの友情に出会えた喜びも感情として付与されるが、相乗効果として、行き場のなくなった興奮を生徒たちが爆発させているのは、不自然でもなんでもなく、当然の帰結だろう。

最後に、これがいちばん重要になるが、「終わらない歌」をバックに流す無人の校舎や校庭、プールなどに雨が必要だからである。いずれのショットにも激しい雨がうつっているが、それはやがて鳴りやんでしまうパーランマウムの演奏とリンクしている。最後の文化祭で組んだ即席バンド。そこに、いずれ訪れる卒業や別れを示唆するとともに、物事は雨のように「いつか終わってしまうもの」であると暗喩している。雨があがっても、四人の友情は、ソンの感じた友情は確かなものに変わりはない。それでも、せつなく、はかないのが青春であり、ロックバンドの激情の美学でもある。


結び



もし、ジョンがいたクオリーメンのライブをポールが目にしなかったら…。

もし、幼なじみだったミックとキースが青年時代に再会しなかったら…。

もし、ウォーホルとヴェルヴェッドが出会っていなかったら…。

もし、ピストルズの親衛隊にシドがいなかったら…。

もし、途方に暮れる響子と恵と望のまえをソンが通らなかったら…。

青春、とくれば迷わず「甘酸っぱい」というワードを連想する作り手が多いなか、『リンダ リンダ リンダ』は青春期特有のもどかしさやみっともなさにあふれている。ものすごくダサくて、ありえないほどたどたどしい。それがかえって、物語を美しくまとめずに仕上げ、役者たちの魂をそこに宿している。巧みなストーリーや稠密なカタルシスがなくとも、音楽が、たしかな青春が真に生きている。

そして、ロックバンドに起こる偶然の奇跡は、必然ともいえる神様の思し召しである。短くても、ヘタクソでも、感情にはしる脈動をロックの神様は感じている。

言えなかった響子の想いを、もの静かな望の熱意を、だれより真面目な恵の願いを、がむしゃらにうたうソンの喜びを、グルーヴにのせて今日もどこかでロックンロールは鳴っているんだ。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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