レオ五楽考

2020/11/01

essays

t f B! P L
タイトルは『楢山節考』を『ネオ五条楽園』と私の名前でもじった会心の題です。

ネオ五条楽園、みなさん聴いてますか? 聴いてないですか。そうですか…。今日その話なんですけど…。



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ネオ五条楽園はヤブタとヨウイチ、京都在住の二人の一般人によるポッドキャスト番組である。敬称はつけないスタイルでいくので、僕の考えるネオ五条楽園のおもしろさの内部を、備忘録も兼ねて書き連ねておこうと思う。



減点されない聴きやすさ


僕はポッドキャストを探る際、めぼしい番組を見つけたら第一話から聴くようにしている。ネオ五条楽園を最初に聴いたとき、すでに何話かのエピソードがアーカイブされていたが、再生したのは第1回『ヤブタとヨウイチがPodcastを始めるなんてぇ!?』だった。

いきなり話の趣旨から大幅にずれてしまい恐縮だが、ネオ五条楽園のように、数多くある一般人のポッドキャスト番組は、ファンになるまで減点方式がとられるとされる。声が好みじゃない、マイナス1点。笑いかたが気持ち悪い、マイナス3点。内輪ネタが多い、マイナス5点。編集がザツ、これもマイナス。といった具合にだ。

たいして、芸能人や著名人によるポッドキャスト番組は加点方式である。大好きな伊集院光の番組を聴く、期待をこめてプラス2点。大好きな伊集院さんがおもしろいこと言った、プラス3点。というふうに、番組を聴くまえからパーソナリティの容姿や性格、声のトーンや話しかた、バラエティ要素などを知ったうえで聴くから、よほどの期待外れがなければ減点にはならないし、嫌いになることがない。極端に言えば、どれだけつまらない話をしていても、パーソナリティのファンである以上おもしろいラジオ体験はできるわけだ。

宇多田ヒカルがポッドキャストを始めたらみんな聴くけど、宇多田ヒカルみたいなしゃべりかたの一般人がポッドキャストをしてもだれも聴かない、というような話だ。(宇多田ヒカルさん、ごめんなさい)

だから、一般人のポッドキャスト番組を初めて聴くときはいつも「大丈夫かぁ〜?」といった具合に肩の上から試している感覚がある。こればかりはパーソナリティの本質的にパーソナルな部分がわからない状態なので仕方ないし、僕も番組名とアートワークで興味をもったものの減点方式で入口から聴かなくなってしまった番組はたくさんある。

ネオ五条楽園に話をもどそう。

ネオ五条楽園のパーソナリティ、ヤブタとヨウイチには、そういう一般人のポッドキャストにありがちな、いやな口癖やしゃべりかたのクセがなく、一言で片付けてしまえば嫌悪感がないトークをする。この時点で、減点方式のポッドキャストとして減点要素の少ないネオ五条楽園は、かなり番組としてキャッチが効いている。

二人の声の聴き分けもしやすくて、僕のようなクレイジーポッドキャストリスナーにも、最近SpotifyやAmazonプライムから入ったウェブラジオ入門者にも、万人に聴きやすい番組であると言える。

声のトーンは落ち着いていて、二人ともダウナーな感じである。が、その雰囲気に呑まれるように会話の随所に心地良いポイントがある。そういう、空気感に漂う居座りの良さは、良いポッドキャストの条件でもある。



素人の武器を生かした構成


原則的に、ネオ五条楽園には番組BGMがない。DAWソフトが簡単にいじれるようになって、DTMがより身近に普及しているいま、録音した音声に音楽を追加することは限りなく簡単になってきている。音楽や宅録をしたことのないひとでも、少し勉強すれば「ラジオ番組っぽさ」を演出することができる。

しかし、大勢の一般人ポッドキャスターが勘違いしていることなのだが、そのBGMは諸刃である。

AMやFMで流れているようなプロの番組っぽさを演出できる、それは配信者としての自分をおおいに満足させるだろう。そうすることで達成感もあるし、編集をがんばったぶんしっかりと番組らしくなる。しかし、一般の名も無い配信者の番組にはあって、プロや芸能人の番組にはない要素が、ひとつだけある。

「盗み聴き感」である。

これは唯一、一般人や素人が芸能人などのプロに勝てる武器である。ネームバリューの落差ゆえに、リスナー数のアナリティクスでは圧倒的に劣るが、それが逆に「こんなにおもしろい話を自分しか聞いていない」という満足感につながる。厳密に言えば「自分だけ」なはずがないのだが、JUNKやANNなどプロの深夜ラジオもそもそもそういった優越味を武器に成長してきたコンテンツであり、「このラジオを聴いていることは親友にも言っていません」という深夜ラジオあるあるなお便りも、下品さや下世話さに起因する部分もあるが、ある程度はこの盗み聴き感に由来している。

BGMはたしかに番組に番組らしさを与えるが、同時にこの盗み聴き感を殺してしまう。

正直を申せば、ただ話を録音してそのまま配信するだけでも、一般人によるポッドキャストはかなりのアドバンテージを得られるんだが、ネオ五条楽園はこの辺りの差し引きが本当に巧みだ。

環境音に近い無害な配信をする一方で、話題転換や番組構成の都合で最小限に配されたジングルは、決していい加減なものではなく、きちんとつくりこまれている。長さもちょうどよく、番組の雰囲気や二人の関係性を表す良いジングルだと思う。これが入ることで、リスナー(サクラー)を振りまわさない程度にトーク全体がシャキッと締まった面持ちになっている。

ネオ五条楽園も、男子二人の仲良しトークを盗み聴きしているような感覚をおぼえる。「この番組は〜」「京都在住の男2人による〜」のような番組らしさがにおうテンプレート的な言葉が少ないのはもちろんだが、あくまで二人が楽しめればいいような話題をチョイスして、そのうえで置いてけぼりにならない説明を加えてくれるためもある。このスタイルはどれだけ配信が慣れてきても続けてほしい。咀嚼音やポテトチップスの袋を開ける音すらも愛しますから。


むずかしいタイプを行くネオ五条楽園


ネオ五条楽園はリスナー(サクラー)からのお便りを中心にフリートークをまわす回が増えている。これを良きとするか悪しきとするかは別問題として、このスタイルはポッドキャストのスタイルではなかなかめずらしい。

原則的にポッドキャストは3種類のカテゴリーに分類することができると言われている。

まず「レクチャー型」と呼ばれるものである。バイリンガルニュース、スピードラーニングなどの語学系ポッドキャストや、ハウツーものの番組などがこれにあたる。レクチャー型に関しては、パーソナリティやトークのおもしろさは度外視され、正確な情報を、正確に伝えることが重要とされる。そこに付加価値としておもしろさがあればなおよしである。

次に「ディベート型」。2人〜4人くらいで配信されるほとんどの番組がこれだろう。映画語り系のポッドキャストもここに分類される。テーマや議題を設け、パーソナリティが意見を出し合い、話の内容に厚みを持たせるタイプである。「そんな考えかたがあるのか」「自分にはない引き出しだな」といった楽しみかたができる。

最後が、もっとも手を出しやすくて、もっとも危険なんだが、「エピソードトーク型」である。

エピソードトーク型のポッドキャストを素人がやるのは本当に危険である。「中学時代こんな話があって〜」「むかしこんなひとがいたんですけど〜」など、もっとも手軽そうに見えるが、その実いちばんテクニックを要する。素人のエピソードトークには、芸能人と違いみんな入口の段階では興味がない。少しでもおもしろくなかったら、『星野源のオールナイトニッポン』や『バナナマンのバナナムーン』を聴けばいいだけなのだから、リスナーの獲得にも相当の努力がいる。

そして、僕が考えるに、ネオ五条楽園はエピソードトーク型ポッドキャストである。

お便りを膨らませているぶん、配信者発のエピソードトークという色は薄れてはいるが、それでも、いただいたお便りをもとに思い出話をしたり、ときには配信中に絵を描いたりする未聞のスタイルは自由奔放なエピソードトーク型ポッドキャストの原型を維持している。番組開始当初はディベート型の側面が色濃かったが、現在はほぼリスナー(サクラー)からのお便りにおんぶにだっこになっており、これは簡単に真似しようと思ってもできることではない。

エピソードトーク型のポッドキャストの真髄はそのくだらなさであり、気楽に笑える手軽さとしょうもなさである。ネオ五条楽園がエピソードトーク型を維持しているのは、二人のトークに嫌味がないからこそ成立している部分が大きい。だらだら配信を標榜するポッドキャスト番組は多いが、ネオ五条楽園は、あくまでそれに近い低姿勢を維持しながらも、お便りにはちゃんと応えるし、真面目な面もたくさんある。会話が会話を全うしているため、出しゃばった感じが悪目立ちすることも、変に謙りすぎてこちらが恐縮することもなく、ちょうどいい温度感で聴ける。なにも考えずに会話しながらも、番組グッズを多数用意している熱量は、イメージのそばからその印象を助けている。

こういったキャラクターの配信を嫌味なく聴けるというのは、配信者であるヤブタとヨウイチ、二人ともが人見知りなく初対面に臨めるような性格の持ち主であるというところも、大きく作用しているのではないかと思う。自分の開きかたを性根で知っている人間特有のオープンなトークは、番組の雰囲気にも影響を与えていて、だからリスナー(サクラー)からのお便りも絶えないのではないだろうか。



結び


印刷業という職種を生かしてどっさどっさとグッズを量産し、ジングル作成や番組編集を積極的に受け持つヤブタと、ヤブタに引率されながらもふらりふらりと豊富なボキャブラリーで的確に応対するヨウイチ。素人ポッドキャストのパーソナリティのバランスや組み合わせにはときとして運命的な奇跡があるが、この二人もわりかしハイレベルな奇跡である。音楽や文芸などのサブカルチャーの趣味が重なる部分が多そうなのもそうだが、それ以上に性格や人間としてのタイプ、相性がいいことが拝察される。

アラサーに差し掛かり、どちらかが結婚したら終わると公言されている番組ではあるが、末長く続いてほしい。リモート収録の回もあったが、それ以外は原則的に毎週会ってその都度収録・配信しているのだからあたまが下がる。何ヶ月かに一度会って何話も収録し、小出しに配信するポッドキャストのほうが多いのではないだろうか。身長180の大男が月に一回家にくるくらいなら、奥さんも許してくれる気がする。結婚したり家庭を持ったり、個としてのありかたが変わったとしても、配信スタイルを変えてでも聴き続けたい番組である。

ネオ五条楽園、もちろんその番組名は由緒として引き継ぎながら。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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