YUKIの歌が行き交うターミナルで、よくばりな呼吸をしたっていい

2021/05/01

music

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もうなにがしゃべりたいって、YUKIの10枚目のオリジナルフルアルバムである。

2020年初頭、世界じゅうを疫禍に陥れたころから制作をはじめたという今作は、その影響もあって制作を中断された時期もあったとYUKIは語っている。

しかし、2017年の8th『まばたき』において自らをして“自称ミス大丈夫”と表現してみせたYUKIである。10枚目となるこのアルバムに、世界的な風刺や政治的なメッセージで問いかけるのではなく、いつもの、いや、いつも以上の、前向きで優しい希望にあふれるイマジネイティヴでファンタジックなYUKIがいるだけだった。


YUKIがいまなお好奇心に満ちる強さ


そもそもYUKIという歌手は、どんな逆境下や不自由な環境においても、その独創的な楽観姿勢を貫いてきた人間である。有り体な言いかたをすれば、思ったことを自在な言葉で自由に解き放ち、尽きることなき精神性でつねに周囲をとびきりのドリームポップで着彩してきた。

今作にも、ネオソウル、80'sポップ、ジャジーサウンド、フォーキーロックなどの多彩な楽曲がラインアップされている。アルバム表題にして曲題にも現れている「Terminal」という言葉がそれらを一身に担っていて、かつ極めて機能的にその多様性を動かしているとするなら、問答無用で一見不明なポップなYUKIのワードセンスはこの渦中とてびた一文ぶれていない。

西寺郷太(NONA REEVES)や前野健太など、自身が敬愛するアーティストとつくりあげた前作『forme』を制作したころは、CharaとのボーカルユニットChara+YUKI名義で『echo』をリリースするなど、近年はさまざまなアーティストとのコラボレーションで作品を発表してきた。

それはきっと、奥底の知れない刺激であったと思う。才能そのものと、途方ない鍛錬で練りあげられた彼らのセンス、ポップ、サウンドスケープ。この突き上がる渦流にも似た、「自分とは違う」壁面に囲まれたとき、ときとしてひとは圧倒的な無力感すら憶えることもあるだろう。

しかし、YUKIは違った。

負けなかったのか、それともナチュラルボーンでそれを楽しんでいたのかは、本人しか知らないことであると思うが、ソロになって20年近く経つこのひとでもなお、自分の知らない「箱庭の外、自我の外」にまだまだ好奇心を保てるというシンプルな事実は、前置きにして実直に驚く。


幸せを願うYUKIの「かわいい」の形態


そうして奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、今井了介、LASTorderといった初顔合わせの面々を迎え、今作をつくりあげたわけなんだが(結果的に『Terminal』収録曲のうち、5曲は今井のチーム(TinyVoice, Production)と制作している)、世界的な疫禍にYUKIの投げかけるメッセージはただ無意なポップネスではない。

ファンのなかでは、YUKIはYUKIであり、いつまでもポップアイコンなんだが、そんな彼女も身体的には50を迎える年齢である。いつまでも「かわいいYUKIちゃん」でいることは叶わない(いや、このひとならマジでそう在ってくれる可能性すらあって逆に怖いんだが)ことは、美麗も加齢も衆目に晒される本人がいちばん解っていることである。本来なら、その姿が50になっても世間の見目に触れる彼女のキャリアに礼賛を送らなければならない。

それでも、自分が美しくあること、楽しくあること、幸せであること。それらがYUKIの手の届くひとたちに示されたときに、あるいはそれが彼女の生活にとても密な願いとして、手をとりあえる身近な幸福への祈りとするならば、いち個人として、人間として、胸を張れる世界平和といっても過言ではない。

一瞬で地球を塗りかえる魔法のような平和が未来であるだなんて微塵も思っていない。YUKIの守れる平和はあくまで彼女がそう願える生活のなかにいる平和である。しかし、個として人間のできることなんて、本質的にはそんなもんではないだろうか。

「good girl」という歌が収録されている。ヒロイニズムの巨匠ディズニーは、かつて映画『アナと雪の女王』の主題歌「Let It Go」で“The perfect girl is gone (完璧なヒロインはもういない)”というメッセージとともに「ありのままの」自分を解放することを問いかけたが、今作のYUKIはこのメッセージに非常に近いものを打ち出している。ただ、YUKIはありのままでいることを望むと同時に、いい子、かわいい娘でいることも投げ出さない。

その欲張りな、なにひとつ手放さない天下無敵のポップネスがYUKIには許されてしまう。「わがままないい子」が似合ってしまうのは、これまで自分の歌と向き合ってきた結果である。



結び -YUKIってターミナル-


「ターミナル」という言葉には、「終着」「終点」という意味もあるが、それ以上にひととひととの袖擦り合わせが絶え間なく発生している交差点のような役割も果たしている。最終到達地点であると同時に、出発地である。

そのことをメタファーとして扱った先行シングル「Baby, it's you」は、YUKIの出立を祝福するようなはなむけとして機能している。「君の笑顔」を「出発地点にして」これからYUKIの向かう先に、まだ想像性とポップミュージックはごまんと存在する。このアルバムを聴いた僕らが思わずこぼす「笑顔」をエネルギーにして、今日もYUKIはうたう。YUKIは、だからいつもご機嫌で、だからいつも美しい。

心も体もタフな「ミス大丈夫」はgood girlである。「Terminal」とはYUKIそのものだ。YUKIというターミナルに交差する音楽は、いつもリスナーの心に鳴っていて、変幻無敵の一会を生み出し続けてきたんだから。

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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