むせる占い師と三次ラッキー方程式の解

2021/08/03

t f B! P L



夏季限定で、駅前のビルに評判の占い師が居を構えていると聞きおよび、さっそく占ってもらってきた。

地元ながら、駅前といっても特別に街が栄えているわけではない。大きな都市と大きな都市との狭間に位置するこの町は、必要最低限のスーパーやコンビニ、飲食店が軒を連ねるだけの、ただの暮らしやすいベッドタウンである。でもなぜだかデカいパチンコ店がバス通りを挟んでしのぎを削りあっている。なんで。

件の占い師がいるのは、駅に隣接するビルの二階と聞いた。市の施設や観光案内所の前を通り、なぜだかつぶれない昔ながらの花屋を過ぎると、いかにもダークマターの香りがする一角を見つけた。

写真でお伝えできないのが誠に残念ではあるのだが、色とりどりの植物が並ぶお花屋さんを前に明らかな「毒素」といった面持ちの、しかしながらそれでも慎ましやかにここのテナントを賃貸として借用させていただいておりますといった雰囲気で、小さくも抜群の存在感を放っていた。漫画や映画でしか占い師を見てこなかった僕にとって、通俗的なイメージをそのまま倍にして具現化した、怪しい占い師の権化と言っても過言ではあるまい。

無駄だろうが一応ながら説明をすると、まず天井付近にユニコーンの置物が狛犬のように対になって吊り下げられている。彼らの一角の部分は右が青、左が緑と、およそ幻獣界でもめずらしい配色をされており、後ろ足からは「夏⭐︎期間限定」「初回限定三千円」という垂幕が怪談の書体でそれぞれかけられている。雰囲気は完全に甲子園出場が決まった際に校舎の前面に掲げられるアレであるが、「限定」が二回でてきてややこしい。

黒と紫のカーテンが店全体を包んでおり、ところどころに百均で買ってきたような貝殻や珊瑚のレプリカが貼ってある。え、海? この時点で早くも僕の心は疑心100%である。店の前でたたずむ僕を花屋のお姉さんがじっと見ているのが横目にわかる。僕は意を決した。

「すみません」
「あ、お客さん!? ズズルッ……ちょっと待ってくらさいねズルッ。そちらのお席にゲホッ……水、水ちょうだい。あ、そちらかけてお待ちくださいすぐ行きます〜」

絶対カップラーメン食べてたじゃん。しかもこってり系の。匂いでわかるが、むせたところを見ると台湾ラーメンの可能性も捨てきれない。しかし、聞いてはいけない。いきなり神秘のなかに潜む生活感を見てしまったが、聞いてはいけない。水に流そう。

なんて考えながら待っていると、いかにも占い師然とした占い師の女性と、後ろからもう一人若い女性が出てきた。若い女性はペットボトルの水を小声で「一応」と言って、占い師に渡した。占い師は小声で「大丈夫」と言ったが、若い女性は小声で「こういう時世やから」と譲らない。占い師は仕方なくと言った感じで小声で「そう? じゃあ」と受け入れた。これらの会話はすべて小声にて執り行われたが、眼前で見ている僕には筒抜けであった。

「では、さっそく」

占いが始まった。生年月日や氏名を書き渡すと、占い師は僕に三つのことを詳細に告げた。身も蓋もないが、要点だけ話そう。

①いまの仕事をやめるかも
②親友を疑いたくなるよ
③意中のひとに見捨てられるね

とのことだった。悪いことしかない。

要点だけ話したが、要点だけ話したのには理由がある。占い師はものすごく親身に、詳細に、なぜそうなるのか、そうならないためには、など話してはくれたが、それらがことごとく

①いまの仕事をやめる→できるならやめたい
②親友を疑いたくなる→毎月人狼をして疑っている

という僕の心当たりに合致していたからだ。正直途中から「人狼のことだな」と思いながら聞いていた節すらある。だからこれらは僕にとってはむしろ好都合なことで、むしろ③に関してもっと詳しく聞きたい。

「そうねぇ、時期的には春がよかったんだけど…。青いものをお守りがわりに持ち歩きなさい。あとあなた爬虫類は好き?」占い師は水を時々飲みながら、僕にラッキーアイテムを提案する。

「青は好きですけど、爬虫類は、好きってわけでは…」
「そう、あなたの運を導くにはね、天使、青色、桜か梅、爬虫類もしくは両生類の生き物が良いって出てるのね。全部持ち歩いてほしい。できれば。全部」
「いや、さすがに爬虫類を持ち歩くのは…」
「写真とかイラストでも良いのよ」
「別々にしてもいいんですか? 例えば、天使の写真と、青のペンと、桜のなにかとか」
「それはかまわないわ。でも三つ以内が望ましくて、同じ場所に入れておく必要があるわねぇ」
「とんち?」
「まぁ、四つ以上の要素を三つに持ち歩くのは、とんちとも言える」
「うーん」
「うーん」

しばらく僕は本気で考えた。天使というのは、自分にとっての偶像性の象徴でもかまわないとのことだった。だとしたらアイドルの写真でも通ることになる。しかし、青、桜か梅、そして爬虫類…。難問が僕にはだかったそのときだった。


閃いた。


こういうとき、「降りてくる」感覚はたしかに天使なのかもしれない。ジョン・レノンがイマジンを作曲したとき、ひょっとしたらこういう感覚だったのではなかろうか。


「あの、爬虫類って、ドラゴンでも大丈夫ですか?」


即答で「ああ、いいと思う」と占い師はくれた。こういうときの自分の無駄なひらめきには我ながらすごいものがある。僕はさっそく一枚の葉書を見せた。

ポッドキャスト番組『ネオ五条楽園』のふざけた葉書である。

この葉書には、ネオ五条楽園の配信者であるヤブタとヨウイチ、二人によるそれぞれの独創のドラゴンがあしらわれており、ヤブタのフェイバリットカラーである青色を基調にデザインされている。

そして、この番組はリスナーの名称を「サクラー」としており、桜ももちろん葉書のなかに据えられている。

占い師はこの葉書を見て「これはいいわね!」「なんなのこれ」と言ってくれた。後者は無視した。

あとは天使、もといアイドルである。自分のなかの偶像には事欠かないので、これに関してはあとでBiSHのモモコさんのポストカードなりローレン・メイベリーの写真なりを用意することとした。




そんなわけで、仕事を辞めても親友を疑ってもかまわない僕の恋愛運は、いますべてラジオ番組の葉書とアイドルのブロマイドにかかっている。

手帳にはさんで、いついかなるときも持ち歩き、運を手放さないようにしたいと思う。

意中のひとに見捨てられないように。

おわり

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好きな言葉は「アイスクリーム4割引」、嫌いな言葉は「ハーゲンダッツは対象外」です。趣味はドラえもん考察。読売ジャイアンツのファン。高2のとき現代文の全国模試で1位に輝くも、数学に関しては7の段があやしいレベル。

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